養育費不払いに強制執行するには? 公正証書が必要な場合と執行の方法
離婚後に未払いとなった養育費は、強制執行を申し立てることによって回収できます。
特に、養育費の支払いを公正証書で合意していれば、スムーズに強制執行を申し立てることが可能です。早期に養育費の支払いを受けるためには、弁護士のサポートを受けましょう。
本コラムでは、養育費の強制執行に関する基礎知識や、養育費を公正証書で合意することのメリットなどを解説します。
1. 養育費の強制執行とは
「養育費」とは、子どもを養育するために必要な費用の総称です。子どもの生活費や教育費などが養育費に含まれます。
養育費は、子どもの両親が収入や資産に応じて分担する義務を負います。子どもの両親がすでに離婚している場合や、子どもが婚姻外で誕生した場合には、親権者でない側の親(=義務者)が、親権者の親(=権利者)に対して養育費を支払います。
しかし実際には、義務者が支払うべき養育費が未払いとなるケースもよくあります。この場合、権利者は義務者の財産に対して強制執行を申し立てて、養育費を回収することができます。
「強制執行」とは、債務者の財産を強制的に差し押さえるなどして、債権者に対する弁済に充てる法的手続きです。養育費について強制執行を申し立てると、義務者の財産が差し押さえられ、換価・処分などを経て養育費の支払いに充てられます。
2. 養育費の強制執行の対象財産・方法
養育費について強制執行を申し立てると、幅広い義務者の財産から養育費を回収できます。養育費の強制執行は、「直接強制」の方法によるのが原則です。
(1)養育費の強制執行の対象となる財産
金銭的価値のある財産は、幅広く養育費の強制執行の対象となります。具体的には、不動産(土地・建物)、動産(預貯金や自動車など)、債権(貸付債権や給与債権など)などが強制執行の対象です。
ただし、差押禁止とされている財産・債権については、強制執行の対象とすることができません。
差押禁止財産・差押禁止債権の例
- 生活必需品
(例)衣服、寝具、台所用具、畳、建具など - 1か月間の生活に必要な食料、燃料
- 事業のために欠くことができないもの
- 礼拝または祭祀(さいし)に欠くことができないもの
(例)仏像、位牌(いはい)など - 系譜、日記、商業帳簿
- 勲章
- 学校などにおける学習に必要な書類、器具
- 未公表の発明、著作
- 義手、義足
- 公的年金の請求権
- 生活保護費
養育費については、元配偶者の給与を対象として強制執行(債権執行)を申し立てるのが、最も効果的な回収方法です。
継続的に支払われる給与を1回の手続きで順次差し押さえ、元配偶者が退職するまで養育費の支払いに充てることができます。ただし、養育費の強制執行によって差し押さえることのできる給与の額は、手取り額の2分の1までに限定されています。
(2)養育費の強制執行の方法|直接強制が原則
養育費の強制執行は、直接強制の方法によるのが原則です。
「直接強制」とは、債務者の身体または財産に実力を加え、強制的に債権の内容を実現することをいいます。養育費の強制執行の場合、義務者の財産を差し押さえて、強制的に換価・処分等を行って養育費の支払いに充てます。
なお、養育費の強制執行は間接強制の方法によることも認められています。「間接強制」とは、債務を履行するまでの間、ペナルティーとして継続的に間接強制金の支払いを命じる方法です。債務者に心理的プレッシャーを与えて、債務を履行させようとすることを目的としています。
ただし養育費については、間接強制よりも直接強制の方がスムーズな回収につながります。そのため、あえて間接強制を選択する実益はなく、直接強制によるのが適切でしょう。
3. 養育費の強制執行の手続き
養育費の強制執行は、相手方の住所地を管轄する地方裁判所に対して申し立てます。強制執行の申し立てにあたっては「債務名義」が必要です。
債務名義とは、強制執行によって回収できる債権の存在と範囲を公的に証明する文書で、以下の例が挙げられます(民事執行法第22条)。
債務名義の例
- 確定判決
- 仮執行宣言付き判決
- 仮差押命令、仮処分命令
- 仮執行宣言付支払督促
- 強制執行認諾文言が記載された公正証書
- 和解調書
- 調停調書
- 審判書
など
養育費について、上記の債務名義がまだ手元にない場合は、強制執行の申し立てに先立ち、調停・審判・訴訟などによって債務名義を取得しなければなりません。
養育費の債務名義を取得したら、裁判所に執行文の付与の申し立てを行い、債務名義に執行文を付与してもらいましょう(同法第26条)。執行文の付された債務名義の正本は、強制執行の申し立てに用いることができます(同法第25条)。
なお、養育費の強制執行を申し立てる際には、対象とする元配偶者の財産を特定しなければなりません。元配偶者の財産を把握していない場合は、財産開示手続(民事執行法196条以下)および第三者からの情報取得手続(同法204条以下)を申し立てましょう。財産の開示を受けられることがあります。
強制執行の申し立てが受理されると、対象財産の差し押さえや換価などが行われ、養育費の支払いへ充てられます。
4. 公正証書があれば、スムーズに養育費の強制執行ができる
養育費の強制執行は、公正証書があればスムーズに申し立てることができます。
離婚時に作成した公正証書において、養育費の支払義務の内容と、不払いが生じた際には直ちに強制執行に服する旨(=強制執行認諾文言)が記載されていれば、その公正証書を債務名義として強制執行を申し立てることが可能です。財産分与や慰謝料などについても、同様に公正証書に基づいて強制執行を申し立てることができます。
これに対して、公正証書以外の方法で作成した離婚協議書などは、強制執行の債務名義として用いることができません。この場合、強制執行を申し立てるためには、調停調書・審判書・確定判決などが必要になります。
養育費の不払いが生じた際に、強制執行をスムーズに申し立てられるようにするためにも、協議離婚の際には公正証書を作成しましょう。
5. 給与に対して養育費の強制執行をする際の注意点
養育費の強制執行手続きでは、元配偶者の給与を差し押さえる方法が最もよく行われています。
給与の差し押さえは「手取り額の4分の1まで」しか認められないのが原則です。しかし、養育費の強制執行を申し立てる場合には、「給与の手取り額の2分の1まで」の差し押さえが認められています(民事執行法第152条第3項)。
また、将来支払われる給与についても差し押さえた上で、養育費を回収することが可能です(同法第151条の2第1項第4号)。
養育費の強制執行を申し立てる際には、元配偶者の住所や勤務先を特定する必要があります。住所は戸籍の附票などから、勤務先は財産開示手続や第三者からの情報取得手続によって把握できる可能性があります。住所や勤務先の調べ方が分からないときは、弁護士にご相談ください。
6. 養育費の支払いを確保するためには弁護士に相談を
養育費の支払いを確実に受けるためには、離婚時に公正証書を作成することが大切です。もし公正証書を作成していないときは、調停・審判・訴訟などを通じて債務名義を取得する必要があります。
離婚公正証書の作成や、養育費に関する調停・審判・訴訟は、弁護士に対応を依頼できます。弁護士のサポートを受ければ、適正額の養育費を回収できる可能性が高まります。養育費の未払いについてお悩みの方は、お早めに弁護士へご相談ください。
- こちらに掲載されている情報は、2024年05月29日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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