過払金今昔物語~時効で戦う現代の過払金返還請求~

過払金今昔物語~時効で戦う現代の過払金返還請求~

1つの時代がありました。過払金返還請求、これをするだけで依頼者に大金を渡すことができ、弁護士も確実に報酬を得られた時代です。今でもテレビCMで、過払金をキーワードにした宣伝を見かけます。これは、今でも過払金という言葉に関心を持っている一般の人達がいるということであり、今でも請求できれば依頼者にも弁護士にも利益になると考えられていることの一つの証左なのかもしれません。

確かに、今でも過払金が発生しているなら、長く返還されていなかったこともあり大きな金額になっている可能性があります。一方で、現在では簡単に請求できるものではなくなっています。大抵の場合、「時効」という障害が立ちはだかり、乗り越えるには民法に関する専門的な議論を要したりします。今や過払金返還請求は、確実に勝てるお仕事ではないのです。

そんな過払金というテーマについて、今回は語ってみようと思います。

1. 金融機関によって違法な請求が平然と行われていた暗黒時代

そもそも過払金とは何か?これも、過払いという言葉の知名度の割には知られていないかもしれません。払い過ぎたと言うと、何か払っていた側に過失があったかのようにも見えますが、これは年29.2%弱という利息制限法の上限をこえた、違法な利息を金融機関から支払うよう請求され、借金をしていた人が何も知らずに払わされてしまったお金です。

まさか、金融機関が違法な請求をしてきているだなんて普通の人は思いません。そしてうっかり支払ってしまうと、任意に相手が支払って受け入れられたのだから、元々違法な利息であろうが正当に確保できると当時は考えられていました。そのように読める、「みなし弁済」という規定が当時存在していました。今思えば、そんなバカなという話です。しかし、金融機関はそうやって荒稼ぎをできていたのです。

2. 平成18年の貸金革命~消費者の暗黒時代から金融機関の暗黒時代へ~

そのような違法な利息について、民法が定めた不当利得返還請求権を用いて取り返すのが、過払金返還請求訴訟です。決定的となったのは、先述したみなし弁済について平成18年に、一括請求を迫られた状態での利息の支払いは任意に支払って受け入れたとは評価できないという内容の判例が生まれたことです(最判平成18年1月13日民集60巻1号1頁)。このことにより、利息制限法を無視して設定された利息について、返還請求が原則可能であるということが法律実務上も固まりました。

そして、消費者による逆襲が始まります。ダンスのCMで有名だった武富士も、ビジネスモデルが崩壊して会社更生法の適用に至りました。打てば大金が入ってくる過払金とばかりの、過払金黄金時代の到来です。

ただ、今振り返って私が思うのは、利息制限法という利息について規制した法律を無視して、プロが利息を請求できるという状態が異常だったということです。異常さの原因だったみなし弁済規定を削除した新しい貸金業法も、平成18年12月に国会で可決されます。もっとも、新しい貸金業法が施行されたのは平成22年6月18日ですので、実は狭間の4年の間には、平成18年の判例に基づきながら、なおもみなし弁済規定を用いようという試みが続けられました。

3. 過払金返還請求は、なおも可能性を秘めている~しかし技術が必要となった金鉱~

現在では、過払金返還請求は2で記載した黄金時代ほど容易に請求できません。理由は時効にあります。時効と聞くと、刑事事件を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、民法にも時効があります。いくら法律上の請求権があったとしても、一生請求を受ける可能性があるとすると対応する側には大変ですし、処理する裁判所も事件数が膨大になって対処しきれなくなります(明治の紛争を持ち込まれても、判断に困ってしまいます)。

そこで、法律は一定の時点で、強制的に問題を修了させる時効という制度を用意しました。そして、過払金返還請求の場合も、「起算点」より10年を経過してしまうと時効が成立してしまい、請求ができなくなってしまいます。

もっとも、この「起算点」というのが味噌でして、利息に関する「基本的な契約」が残っている限り、起算点は後ろにずれていくという理論が採用されるなど、ある程度消費者救済の思想が取り入れられています。そのため、長く返済し続けた人なら、今でもチャンスがあるというわけです。

しかし、この「基本的な契約」という部分も論点になり、一回全て支払終えてからあらためて借りた場合、基本的な契約が一度消えているか、ずっと残っているかという議論が生じます。ここらは、取引の継続状態と時々の残債権をつぶさにチェックしてみないと、なかなかどちらになるかの結論は得られません。

これに加えて、令和2年4月より施行された新民法では、「権利を行使することができることを知った時から5年」という新たな時効が設けられました。そのため、令和7年ぐらいになると、「基本的な契約」が令和2年4月1日以降に終了した事件については、「知った時」という部分に絡んで、きっとまた議論が生じることでしょう。

更に時効以外でも、平成18年から平成22年の狭間にかけての契約だと、契約で一括払いの圧をかけていないため「みなし弁済」は成立するのだという主張も出てきます。

このように、今や過払金返還請求は、かなり専門的な議論が絡んでくることもあり、簡単に当然に認められるものではなくなっているのです。

4. 時は金なり~とりあえずプロに聞こう~

現代の過払金返還請求は、とりあえず打てば勝てて大金が戻ってくるというものではなくなっており、ちゃんと弁護士側での活動が必要になります。一方で、消費者救済の理念も取り入れた法解釈から、未だ金融機関に対する請求の道も残されています。

この道が使えるかの判断は、非常に専門的な法律の理解と、事実調査を要するため、自力で考えても答えはでないかと思います。昔から支払いを続けていたなあという記憶がある方は、まず弁護士に相談してみましょう。結局、どのような議論を展開するにしろ、請求が間に合っているかというのが最大の壁になると考えて頂いて良いです。あなたのその一歩が結論を変えることもあります。時は金なりという言葉は、過払金返還請求においては、圧倒的真実なのです。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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