殺人未遂罪の刑期は? 執行猶予がつく可能性はあるのか
「殺人未遂」という言葉は広く世間に知られていますが、傷害罪や暴行罪など、その他の罪との線引きを明確に知っている方は少ないのではないでしょうか。
本コラムでは、殺人未遂の定義や成立要件、刑罰の重さ、執行猶予の可能性などについてわかりやすく解説します。
1. 殺人未遂罪とは
殺人未遂罪とは、故意に人を殺害しようとして行動したものの、何らかの理由で被害者が死亡しなかった場合に適用される犯罪です。
(1)殺人未遂罪の成立要件
殺人未遂の成立要件は、主に「殺意の存在」と「殺害につながる行動」の2つです。
①殺意の存在
まず、殺人罪および殺人未遂罪が成立するには、原則として加害者が「相手を殺害する」という意思をもっていたことが条件です。
たとえ暴力を振るい、結果として相手を死に至らしめたとしても、それは必ずしも殺意によるものとは限りません。たとえば「ささいな事情による怒りから相手を殴ったら、打ちどころが悪くて死亡してしまった」など、加害者にとってもアクシデント的に死亡の結果が生じた場合です。このように殺意が認められない状況では、殺人罪および殺人未遂罪は適用されません。
この例ならば、適用されるのは傷害罪(刑法204条)、もしくは相手が亡くなってしまっても傷害致死罪(刑法205条)などが考えられます。一方、相手がまったく無事に済んだとしても、殺意をもって危害を与えようとしたことが明らかならば、適用されるのは殺人未遂罪です。
殺意の存在を第三者が推し量るのは難しく、加害者本人がかたくなに否定しようとも殺意があったと認められることもあります。裁判では、被害者との関係や事件に至るまでの経緯、犯行時・犯行後の言動、危害を加えた方法や箇所、計画性など、多角的な視点から判断されます。
②殺害につながる行動
殺害につながる行動を実際に起こすことも要件のひとつです。相手に殺意をもっただけでは法律に触れることはありません。殺人未遂になるのは、加害者が実際に被害者を死に至らしめる可能性のある行為を実行した場合に限られます。
たとえば、「ナイフで刺す」「高所から突き落とす」「首を絞める」などは、一般に相手が死亡する危険性が高いと見なされる行為です。どのような行動で相手に危害を加えたか(加えようとしたか)は、殺意の有無を判断する材料にもなります。
(2)殺人未遂の具体例
「殺意をもって行動したものの、結果的に殺害に至らなかった」というのが殺人未遂の概略ですが、具体的な状況としてはさまざまケースが考えられます。以下が、殺人未遂とみなされる参考例です。なお、いずれの場合も殺意が認められることを前提とします。
- 相手の胸に包丁を突き刺したが、治療により相手が死亡せずに済んだ
- 相手の首を絞めたが、途中で自ら思いとどまって犯行を中止した
- ナイフで相手を刺そうとしたが、その前に周囲の人間に阻止された
- 飲料に毒物を混ぜたが、相手が口にしなかった
上記のように、相手を傷つけたり接触したりせずとも殺人未遂罪は成立します。一方、凶器を使用した場合でも、刃物で皮膚や手足を切りつける程度といった致命傷となりにくい状況などでは、傷害罪または傷害致死罪の成立にとどまる可能性があります。
2. 殺人未遂罪の刑期と執行猶予の可能性
殺人未遂罪の刑罰は、殺人罪と同じです。これらは刑法の中でも最も罪が重い部類であり、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と定められています(刑法199条、203条)。
量刑は事件ごとの性質を考慮して判断されます。具体的には、「犯行の悪質さ」「被害結果の大きさ」「犯行動機」「計画性の有無」などが主な判断材料です。たとえば、「犯行の手口が残忍で執拗(しつよう)」「被害者に重大な後遺症をもたらす」「自己中心的な動機である」「巧妙に計画された犯行である」などの場合、量刑は重くなります。再犯の場合や、その他の罪を同時に犯していた場合も同様です。
(1)執行猶予の可能性は?
刑罰の執行猶予は懲役3年以下の罪に適用されるので、原則として懲役5年以上が科される殺人未遂の場合、執行猶予を得られる可能性は基本的にありません。ただし、情状酌量の余地などがあれば、刑を軽くすること(減軽)が認められます。その結果、判決が懲役3年以下となれば、執行猶予が得られる可能性はあります。
刑法第68条に基づくと、減軽は以下のように適用されます。
- 死刑:無期懲役または10年以上の懲役
- 無期懲役:7年以上の有期懲役
- 有期懲役:法定刑で定められた有期懲役期間の2分の1(殺人罪または殺人未遂罪のケースでは2年6か月以上10年以下)
つまり、殺人未遂の中でも罪が最も軽い場合に限って執行猶予を受けられることになります。そのため、実情としては実刑判決が下されるのが一般的です。
3. 殺人未遂罪で逮捕されたら弁護士への相談が重要
もし殺人未遂罪で逮捕された場合、その刑罰を軽くするには、先述のとおり減軽の事由となる主張を裁判で行うことが重要になります。主な減軽事由としては以下が挙げられます。
- 心神耗弱状態での犯行だった
- 自分の意思で犯行を中止した
- 自首をした
- 自分の身を守るための行為(=過剰防衛)だった
- 加害者から虐待を受けていた
また、「殺意がなかった」「殺害につながるような行為ではなかった」と主張し、傷害罪などその他の罪の適用を求める方法もあります。被害者との示談を成立させることも裁判で優位に働く要素です。
ただし、加害者本人が裁判でこれらの主張をしたり、被害者と示談交渉したりするのは現実的ではありません。したがって、もし殺人未遂を犯してしまった場合は、速やかに弁護士へ相談することが重要です。弁護士は、刑の減軽を目指す際に主張すべきポイントを的確に把握し、加害者本人が単独で行うには難しい法廷戦略を構築してくれます。
殺人未遂罪で逮捕された場合は、刑事事件に実績のある弁護士に相談することを強くおすすめします。
- こちらに掲載されている情報は、2024年05月08日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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