執行猶予中に再犯するとどうなる?

執行猶予中に再犯するとどうなる?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

日本の刑罰には「執行猶予」という制度があります。ニュースや新聞などで刑事裁判の様子や結果が報じられる際に「裁判官は執行猶予つきの判決を言い渡しました」などというフレーズが流れるので、耳にしたことがある方は多いはずです。

執行猶予は、刑罰の執行を一定期間猶予し、その期間中に何ら犯罪を起こさなければその執行を行わないものなので、事件後の反省や立ち直りを期待した、ある種の「恩情」ともいえる処分だといえます。

だからこそ、執行猶予の期間中に再び事件を起こすと、期待を裏切ったことになってしまうのでそれなりの処分を受ける事態は覚悟しなければなりません。

本コラムでは「執行猶予中の再犯」について解説します。

1. 「執行猶予」とは? 制度の基本的な概要

「執行猶予」とはどのような制度なのか、改めて確認しておきましょう。

(1)執行猶予とは?

刑事裁判では、裁判官が有罪・無罪の別と、有罪の場合は法律が定める範囲内でどのくらいの刑罰が適切なのかを考慮して量刑が言い渡されます。

窃盗事件を起こして刑事裁判に発展したケースを例に挙げてみましょう。窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

有罪になるとまず懲役と罰金のどちらの刑を科すべきなのかが判断され、そのうえで「ただちに刑を執行すべきか、それとも反省や更生を期待して一定期間に限って刑の執行を猶予するか」が考慮され、有罪でもただちには刑が執行されないことがあります。これが「執行猶予」です。

執行猶予が与えられ、最長5年の期間に再び罪を犯すことなく真面目に過ごすことができれば、言い渡された刑の効力が消えるので刑は執行されません。

簡単にいえば、懲役や禁錮で刑務所に収容されることなく、家庭に戻り、仕事をしながら、社会生活のなかで償いの日々を送れば、厳しい刑罰の執行を避けられるという制度です。

(2)執行猶予が与えられる条件

刑に執行猶予が与えられるには、いくつかの条件があります。

第一の条件は、科せられる刑罰の種類が、懲役・禁錮・罰金のいずれかにあたる場合です。極刑とも呼ばれる死刑や、比較的に軽い刑罰とされる拘留・科料には執行猶予がつきません。

第二の条件は、言い渡される量刑が次のいずれかにあたる場合(刑法25条)です。

  • 3年以下の懲役もしくは禁錮
  • 50万円以下の罰金

たとえば強制性交等罪(旧:強姦(ごうかん)罪)の法定刑は「5年以上の有期懲役」で、有罪になれば最低でも5年の懲役が言い渡されるので執行猶予は与えられません。

第三の条件は、これまでに刑罰を受けた経歴です。

以前にも事件を起こして禁錮以上の刑を受けたことがあり、前回の禁錮や執行猶予が終わったあとで禁錮以上の刑を受けないまま5年が過ぎていないと執行猶予は受けられません。

2. 再び事件を起こすとどうなる? 執行猶予中の再犯の扱い

判決に執行猶予がつくと、すぐには刑が執行されません。では、執行猶予の期間中に再び事件を起こしてしまうと、その後はどうなるのでしょうか?

(1)前回の執行猶予が取り消されてしまう

執行猶予の期間中に再び罪を犯し、新たな事件について禁錮以上の刑が確定した場合は、かならず執行猶予が取り消されます。これを「執行猶予の必要的取り消し」(刑法26条)といいます。

また、新たな事件の刑が罰金であっても、裁判官の判断によっては執行猶予の取り消しが可能です。これを「裁量的取り消し」(刑法26条の2)といいます。

猶予されていた刑が執行されるので、懲役や禁錮が執行され、刑務所へと収容されます。

刑法の規定では再度の執行猶予も予定されていますが、すでに前回の事件で恩情を受けているのにそれを裏切った結果になっているので、当然再度の執行猶予は一般に厳しい判断になるのは間違いありません。

再犯事件は実刑判決を受ける危険が高いため、執行猶予が取り消された前回の刑とあわせて長期の服役を強いられることになります。

(2)執行猶予が取り消されたら、すでに経過した期間はどうなる?

たとえば「懲役1年、執行猶予3年」の判決を受けたとします。2年間は真面目に過ごしたものの、3年目に再び事件を起こしてしまい、執行猶予が取り消されてしまった場合は「真面目に過ごした2年間はどうなるのか?」という疑問が生じるでしょう。

執行猶予の期間が経過しても、言い渡された刑自体が消化されていくわけではありません。あと数日で執行猶予の期間が満了するタイミングで取り消しを受けたとしても、言い渡された刑がそのまま執行されます。

執行猶予中の再犯がもたらす不利益はきわめて大きいので、再び事件を起こしてしまった場合は検察官による起訴の回避が最重要課題となります。被害者との示談交渉など手を尽くす必要があるので、ただちに弁護士に相談しましょう。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

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