ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』10 ~身柄事件~

ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』10 ~身柄事件~

ドラマ『石子と羽男』の第9話(9/9放送)は、またもやごりごりの刑事事件でした。

今回の話は、基本的なポイントながら、身柄拘束を受ける逮捕拘留事案の要点が出ていました。逮捕され、勾留状態に移行し20日間で起訴不起訴の運命が決まる状況。そのような中で起きる出来事を、しっかり掘り下げてみようと思います。

1. 自白は証拠の王様 ~供述調書を作ってはいけない~

「自白は証拠の王様」という言葉があります。昔は特に、そのような考えの下、虚偽自白を生み出すあれこれが行われました。ただこの言葉は、現在でも有効です。

「Aは~をしました」という供述は、直接、犯人がAであることと、「~したこと」を立証でき、犯罪をそのまま証明できる、非常に強力な証拠だからです。

「自白だけで有罪にしてはいけない」というルール(補強法則)もあるのですが、ここで要求されている補強証拠は共犯者や被害者の供述、場合によっては被告人本人の、犯罪の疑いをかけられる前の供述でも足りるとされています。自白を基に作られた実況見分調書は、さすがに自白と独立の意味を持たないとされましたが、他の例だと割と簡単に突破されてしまっています。

そしてその最強の供述証拠を、供述調書という形で作成できれば、「刑事訴訟法322条」で、ほとんど自由に裁判に使えるようになります。自身の不利益な事実を承認する供述は、任意に作成されていれば、伝聞証拠であろうと自由に使えてしまいます。裁判は、その書面1本で片がついてしまう…とまではいわずとも、形勢は確定してしまいます。

今回、赤楚衛二演じる大庭くんが初動で大きなミスをしたと言われていたのは、こういう理由でした。自身の立場に悩んだら、「取りあえず黙秘する」、「供述調書を作らない」といった選択が、冤罪を疑われたあなたの今後を左右するかもしれません。

2. 接見禁止命令 ~手始めに除きたい障害~

石子さんが、大庭くんは黙秘しているので接見禁止だから会えないと言っていました。これは、『接見禁止命令』という、勾留にプラスでつく制限が加えられていたことを意味します。

弁護士は、憲法上の権利でもあるため、当然接見できます。しかし、一般人との面会や手紙の授受等は、事件によっては制限されることになります。この場合、「Bさんはダメ」と言った形ではなく、「誰とも会ってはダメ」という形で制限されるため、個別に面会禁止を解除していく必要があります。身柄事件で接見禁止命令がついていたら、まずはこの「親しい人と会える環境づくり」から始まるわけですね。

ところで、この接見禁止。解除される実務上の基準として、「家族であること」という分水嶺(れい)が存在しています。厳密にそういう法律があるわけではないのですが、家族なら良いという考えが実務家の間で共有されているようなのです。

家族以外でも認められた例はあるのですが、相当あれこれ工夫が必要だったようです。ちなみに、家族だったら必ず会えるわけでもなく、アリバイや、事件に関連する事実の証人になっている場合は、家族でも接見禁止がついてしまうこともあります。

私も、途中から交代した事件で、前任の弁護士の方針から当事者の意思に反して、接見禁止が家族でもとけない状態になっていたケースでは、事前に問題とされていた事実が誤りであることを、証拠から丁寧に示して面会をとりつけたこともあります。家族でもそのように制限されてしまうことがあるルールなのです。

そのため、石子さんが会えないとあきらめていたのも、羽男くんがポンコツだからではないです。代わりに手紙を読み上げて、実質コミュニケーションを取っていましたしね。これは接見禁止の潜脱(せんだつ※)ではないかとも言われかねませんが、手紙をそのまま見せるのではなく、あくまで法律には従う意思がある弁護士を通して内容を伝えているだけなので、羽男くんは、きっちり証拠隠滅とかにつながらないよう配慮していました。地味に、実務的なこだわりがあるシーンだったと思います。

※法律等による規制を、法律で禁止されている以外の方法で免れること

3. 被害者や遺族と弁護士は会えるのか?

示談交渉を希望する場合、被害者の利益を阻害することもできないから、捜査機関は被害者に連絡を取る意思があるかの確認をしてくれます。罪を否定する否認事件だと、ただ示談交渉だけとはいかないわけですが、それをばか正直に述べたら捜査機関も「うん」とは言ってくれなくなるので、「被害弁償を~」と言うんですね。ここも地味に、実務的なこだわりシーンです。

4. 勾留満期 ~終盤の攻防~

今回、真実に至れたのは勾留満期ぎりぎり、不起訴の話を聞けたのも勾留満期日でした。

ところで、通常は、このペースだと手遅れです。検察庁は、「上長の決裁を複数とる」という独自のシステムがあるため、勾留満期2日前くらいから、起訴や不起訴に関する決裁がはじまっています。そのため、いきなり満期当日に連絡しても、「もう起訴しますよ」としか答えてもらえなかったりします。

もしギリギリの事案であれば、その旨を随時伝えて、状況の変化がギリギリまであることを予告しておく必要があります。まあ、これだけ動いていた今回の事件では、羽男くんも当然、そういう根回しもしていたのだとわかります。

5. 実名報道 ~逮捕でわれわれは何を知るのか~

今回は、身柄拘束、逮捕拘留事件の実務的なシーンがめじろ押しだったのですが、最後に実名報道に言及しておきたいと思います。

今回の大庭くんも実名報道されていたようですね。この実名報道、厳密に基準があるわけではないのですが、罪を認めていたりすると、間違いがなかろうと安心して実名報道される感覚はあります。

ところが、たまに、本人がどう主張しているかも『確認』せずに、詳細な報道をされることもあります。ドラマの放送日に報道されていた同志社大学アメフト部の報道も、認否不明の時点から詳細に行われました。このような報道の場合、警察が自白を狙うなど捜査の意図をもってメディアを利用している時があり、絶対に罪に問うという結論を最初から決めているので、冤罪を生む危険が高くなるので、自分が弁護士として関与していない事件でも警戒します。

大庭君は、罪を認めていましたが、犯人ではありませんでした。今回のドラマで描かれたものは、決してドラマの絵空事ではなく、非常にリアルに描かれていた物語です。私たちが逮捕で知っていた事実は、全く底の浅いものであった、これをあらゆる事件において意識するべきだと、私は考えています。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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