ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』8 ~法律は少年を守れるか?~
ドラマ『石子と羽男』の第7話(8/26放送)も、民事と刑事を融合して解決に導くという、法律的なテーマとして非常に優れたプロットでした。法律家は法律に縛られている以上、限界があります。一方で、法律が許容する限界を果敢に攻めて行くこともでき、今回の羽男くんたちは、スーパーマンであったと思います。
今回のテーマも、実際に少年事件などで少年に接する身としては、非常に社会的意義がある内容だと思いました。
繁華街の特定のエリアに行けば、今でもいつでも18歳未満の少年と性交することができます。SNSで検索ワード等を知っていれば、同じように、18歳未満と性交ができます。
それが現実です。18歳未満と言いましたが、中学生ぐらいの子どもたちも、そのようにして今日もどこかで性行為を行っています。
今回は、話の本筋は“脱帽”というぐらいに優れていたので、プラスアルファになりそうな、作品世界の前提となる補足をしていこうと思います。
1. Kがやった行為は何罪? ~子どもに売春させると成立する犯罪~
子どもの性行為を保護するような法律がいくつかあります。売春を防止する法律もあります。リストアップしてみましょう。そしてクイズです。この中で、18歳未満のキッズに売春をさせていたKが、生きていたら適用される法律はどれでしょうか?
- 青少年保護育成条例違反
冒頭でも出ていましたね。18歳未満との淫行を罰します。 - 売春防止法
対価をもらって不特定の相手方と売春すること、させることを罰します。 - 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
18歳未満に対して、買春すること、させることを罰します。 - 児童福祉法
事実上の影響力を行使して、18歳未満に淫行させることを罰します。
正解は、全部適用可能ですが、実務上は今回の事件でK相手だと「児童福祉法」の適用を念頭に進めることになります。
理由は、懲役10年以下と300万円の罰金併科可能となっており、「法定刑が一番重い」から。それだけです。
解釈のポイントとして、条文には明示的に出てこないものの、青少年保護育成条例、買春(お金の力での誘惑)より重く罰する根拠が必要と考えられ、判例でも「事実上の影響力」という付加的な要素が必要とされています。
この事実上の影響力を持っている人の代表例が、学校の先生です。なお、親だと監護者としてもっと重い犯罪が用意されており、児童福祉法にはなりません。要するに、親ほど密接して逃げられない関係性ではないものの、社会生活上それ相応に接触の機会が多く影響を受ける関係性があると、児童福祉法が適用できるイメージです。
家出少年たちのたまり場のボスは、行き場所がない少年たちに居場所と生活の資源を与えており、非常に強い支配力を有します。また、この手の少年たち特有の文化としても、上下関係意識は強く作用します。そのため、年齢的には18歳を少し超えただけのものでも、児童福祉法における淫行を適用している例があります。
罪の重さとしても、基本的に逮捕になりやすいし、裁判で懲役刑を求められるのが通常と重いです。家に逃げ場がない子どもたちを、少し大人になった子どもが搾取する、ひどい負の連鎖だと思います。
2. 因果関係と高速道路侵入事件 ~誰が被害者をケガさせたか?~
MEGUMIが演じる羽男くんのお姉さんが、石子との電話の中で、因果関係について話をしていました。暴行が違法なのは当たり前として、その暴行によってケガをした、死んだというところまで言えないと、ケガをした(傷害)、死なせた(傷害致死)ことへの責任は問えません。その因果関係論で重要な判例を、サラッと前提におかれた会話が2人の間で行われていました。
『高速道路侵入事件』は、複数人から公園で2時間10分リンチにあって、さらにマンションの一室で45分間さらにリンチにあった被害者が、マンションから逃走するも追跡を受けて、やむをえず近くの高速道路に逃げ込んだところで車にひかれて死亡してしまった事件でした(最高裁平成15年(あ)35号)。
結論は傷害致死を認めたのですが、従来の刑法理論からは説明がしがたいところもあり、因果関係論を白熱させた事件でもあります。一応は、暴行という行為から派生する結果に責任を負わせる罪である以上、いくら被害者がかわいそうでも、あまり拡張させて適用すれば、個人を一方的に処罰する権限を持った国家という立場からは問題です。そのため、被害者側が高速道路に入るという危険な行動、選択の誤りを引き起こすだけの執拗(しつよう)な暴行や混乱状態、追跡状態などを事実として丁寧に評価してはいます。
今回の、小林星蘭演じるお嬢さんの場合、いったん逃げ切って、ふと落ち着いたところで転倒していた点を羽男くんのお姉さんは事実として重視していましたね。判例との違いをそこで感じていたシーンだったのです。
3. DV父親は逮捕されるのか?
石子さんが堂々と、「逮捕される」と野間口徹演じるDV父親に宣告していましたね。はい、されます。被害者への接触可能性が高く、逮捕すべき事案ですね。
これまで羽男くんが逮捕される可能性がうんぬんとぐちゅぐちゅ言っていた事案は、私のコラムで「されない」と指摘してきたのですが、石子が堂々というシーンでは間違ってないんですね。面白いです。
4. 杉山大介はあんな父親でも弁護をするのか?
弁護します。過去にも言及していますが、ちゅうちょはないです。
「身柄解放」を狙う、あるいは裁判での減刑につなげられるよう、娘との接触可能性がないような新たな生活の計画と、両親ともどもの再教育を徹底してやります。
弱者を攻撃対象に選ぶ人間は、別の場面では加害者自身が弱者であったりします。国家は、この犯罪者を一生管理して面倒見てくれるわけではないので、この事件内でできることはしておかなければいけません。その結果が、結局身柄拘束や重い処罰の必要性を減らして、罪を犯した人間の利益にもなります。
ただし、依頼を受ける際には、あるいは接見で面会する際には、かなり激しいやり取りが行われるかもしれません。実際に私が述べてきたセリフは…さすがに公開の場では話せないものも多いので、事件や講習で触れることあればお話しします。
- こちらに掲載されている情報は、2022年08月31日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
お一人で悩まず、まずはご相談ください
犯罪・刑事事件に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?