持続化給付金詐欺は特殊詐欺なのか?~最新のコロナニュースから読み解く量刑論~
2020年3月頃より現在まで、ずっと社会を悩ませているコロナ問題ですが、刑事弁護”村”にもコロナに絡んで非常に増えた相談があります。それが、持続化給付金詐欺に関する相談です。この時点では、私も持続化給付金詐欺の処理について経験を持っていませんでした。当たり前です、誰も知らない。
そんな時、私は特殊詐欺に関する考え方が、持続化給付金にも当てはまるのではないかと考え、そのように解説していました。その答え合わせとなる判決が、昨年続々出ていました。
そこで、あらためて持続化給付金詐欺の位置づけを考えがてら、刑事裁判において結論を決める、量刑の考え方も概観してみようと思います。
1. そもそも特殊詐欺とは何か?~組織的、計画的で手段が巧みな犯罪は罪が重い~
「特殊詐欺とは、犯人が電話やハガキ(封書)等で親族や公共機関の職員等を名乗って被害者を信じ込ませ、現金やキャッシュカードをだまし取ったり、医療費の還付金が受け取れるなどと言ってATMを操作させ、犯人の口座に送金させる犯罪(現金等を脅し取る恐喝や隙を見てキャッシュカード等をすり替えて盗み取る詐欺盗(窃盗)を含む。)のことです。」と警視庁のホームページには書いてあります。また、その具体例として、オレオレ詐欺や還付金詐欺などをあげています。
特殊詐欺という法律用語があるわけではないのですが、この類型にあたると量刑が重くなるのは確かです。刑事裁判における量刑は、まず行為・結果・経緯の3ファクター(犯情)を中心に評価されます。特殊詐欺は、複数の役割分担をして計画的かつ精巧に他人を欺く行為に及んでおり、被害金額という生じた結果も大きくなりがちです(なお、刑法の共犯では、一部に関わるだけでも全体の責任を負うことになります)。そうすると、犯罪としてもかなり重い評価になりがちです。
また、懲役3年以下であれば法律上、執行猶予をつけることが可能なのですが、オレオレ詐欺などが社会に与えた悪影響の観点から抑止力となる必要性が高いとして、初犯でも懲役2年6月くらいの実刑(刑務所行き)とすることが、ままあります。
それでは、持続化給付金詐欺はどうでしょうか。この詐欺にも様々なパターンがあり、知り合いから紹介を受けるものもあれば、SNSで不特定多数から募ったものもありました。親族や公共機関の職員ではなくコンサル等を名乗っており、信用度合いとしては若干警視庁が定義する特殊詐欺よりは落ちそうにも見えます。
一方で、複数人でグループを結成し、首謀者や勧誘者などと別れて行ったところは巧みですし、被害金額も単価が高いことから合計数百万を超えることは多いなど、犯情において重く評価されやすい要素は備えています。また、社会問題となったもので抑止力となる必要性も高いと言えるところからすると、実刑の結論も出やすいのではないかと考えられます。
この様な理由から、持続化給付金詐欺は特殊詐欺そのものではないものの、同等の重い評価が可能で、それゆえに丁寧な対応が必要と考えていました。
2. 持続化給付金詐欺は特殊詐欺より少し軽い評価なのかもしれない
今年は、続々と持続化給付金詐欺に関する判決が出ています。印象としては、全国的には水準がまだまだ定まらずというところです。2021年12月には、福岡地裁でそれぞれ1600万円の詐取に関わった人と、800万円の詐取に関わった人が、執行猶予付判決になったことが、NHKでもニュースになっていました。
この被害額は、オレオレ詐欺であれば一発実刑の水準です。立場が勧誘する末端に過ぎなかったことや従たる立場であることなどは、犯行に関わり被害を生じさせるのに寄与した程度として同じく犯情として考慮しうるものであり、量刑評価からは重要な要素です。
しかし、オレオレ詐欺などの特殊詐欺事案では、そのような末端さを考慮しても実刑という結論を出していることから、やはりこの判決は特殊詐欺より軽めの判決だったという評価ができます。
他にも被害額が1000万円に行っており、被害弁償も十分にできていないながら、執行猶予が認められている事案もあります。もっとも、被害額1200万円で懲役4年以上の実刑という特殊詐欺相当の結論が取られている事件もあります。
これはいったいどういうことなのでしょうか?
3. 答えが定まっていないなら、できることは多い
各地方裁判所の裁判官が出す結論は、たくさんいる裁判官達の中の1意見でしかありません。当初の私のように、特殊詐欺と近接してとらえている人もいるでしょうし、老人を被害者にしていたり、親族の窮状に乗じるなど、より騙されやすい人や状況を用いるものと比べて卑劣さに欠けるなど、オレオレ詐欺の悪質さには及ばないと評価している人もいるかもしれません。事件が増えるにつれ、どう扱うべきかという定説は固まっていくのでしょうが、まだ定まっていないのが実情ではないかと思います。
答えが定まっていないのであれば、弁護活動の余地は広いです。より個別の事情を踏まえて判断を得られる可能性があります。
冒頭の問いへの答えは、弁護士目線で言えば、特殊詐欺ではないかもしれないと考えるべきだ、というものになります。犯罪があったことは間違いなくとも、他の事案と比較して犯情で評価がかわるところはないかと検討するのが、罪を軽くする情状弁護では重要です。その主張の余地が広いものとして、持続化給付金詐欺の判決は、今後も注目に値するものと考えます。
- こちらに掲載されている情報は、2022年01月24日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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