少年事件で家裁へよく行くようになった弁護士が『家栽の人』を振り返る
最近、東洋経済オンラインで、漫画『家栽の人』が掲載されているのを見かけます。ドラマ化などは定期的にあったものの、原作そのものが、今再び掲載されているのには感慨深いものを覚えます。なぜなら、私が今弁護士をしているのは、『家栽の人』がきっかけだったからです。
幼少期、父親の本棚から読んだ、家庭裁判所の裁判官・桑田義雄の姿。人の心に寄り添う法曹としての関わり方。それは、多分にフィクションを含んだものであったことを、私も理解しています。実は、原作者の毛利甚八氏も、その点を大いに悩まれ、自分なりに少年たちのためにできることがないかと葛藤していたことが、晩年のエッセイ『「家栽の人」から君への遺言 佐世保高一同級生殺害事件と少年法』で書かれています。
そこで今回は、少年事件と家庭裁判所に思いを抱いて法曹になった私から見た少年事件の手続きの理想とギャップ、それでも私たち法曹ができると考えることについて語ってみようと思います。
1. 裁判官と少年が会う前から、結論がおおむね決まっている
現実と漫画との一番大きなギャップと私が感じている点です。
少年事件は、最終的に審判において、処分の結論を言い渡されます(一部、審判すら開かずに終わらせるものもあります)。この審判が、裁判官と少年が初めて会う機会になります。ところが、審判は1回しか開かれないのが通常です。しかも、実は審判前から、裁判官は結論をおおむね決めています。
もちろん、判断がきわどい事件では、一応の仮結論を用意しつつ、審判での出来事を踏まえて、言い渡し前に一度会議を開くなど丁寧に対応しますが、それでも一応の結論は少年と直接話す前から決めています。つまり、家庭裁判所において、裁判官と少年のコミュニケーションが何か結論に影響を与えると言う展開は、基本的に見られないのです。
家庭裁判所の名誉のために申し上げておくと、職員である調査官は複数回少年と面談したりしていますし、その調査官の活動には、担当裁判官の考えが強く反映されていることも多く、家庭裁判所総体としては、少年と向き合っています。ただ、少年と心を触れ合うような機会は、システム上、あまり持てないということです。
2. 裁判官は少年にドライなのか?
この点については、そうでもないと感じることの方が多いです。私は、少年事件だと、審判前や各節目で裁判官と面談するのですが、少年の生の声などをききたがっている、少年の良いところを見たいと思っていると感じられました。組織として多数の事件を処理していく都合上、自由に少年や当事者に接触できないことにもどかしさを感じているように見えました。
私がそのように感じるのは、少年の本音を引き出せていそうなやり取りや、少年が関心を持ちそうな活動に関する、生のやり取りを文書として出すと好意的な反応が返ってきたことに由来します。
3. 弁護士はフルタイム桑田義雄でいられる
弁護士は、少年と対話することに何の障害もありません。直接会って良いですし、何度会っても良いです。この点については、調査官も弁護士の物理的限界と同じようには可能なところですが、調査官でも弁護士と同じようには振る舞いきれないところがあります。それは、裁判所側である限り「優等生」でなければいけないという楔です。
調査官は家庭裁判所という、少年に処分を下す側の立場にいます。問題を指摘する時には一定の権威が伴っていないといけないと考えられていますし、あまり模範的でない発言もできないでしょう。少年側も、自分の発言が不利に扱われる可能性を、意識しないわけにはいきません。
弁護士は、そのような重荷を外し、結論として不利益に向かわせることはないと言う安心感の元に、やり取りできます。模範的に振る舞ってくれる側が存在しているからこそ、時に自身は模範とは異なる、むしろ問題を起こした少年と近い目線に立ち、「劣等生」、あるいは社会における「異質」な存在として、どう生きるかを説くことができます。
少なくとも私は、家庭裁判所との役割分担をも意識して、そういう模範的・優等生とは異なる立場から、少年と接しています。その結果引き出される、少年の本音の部分。それは、良いところとは限らず、逆に大人に対して隠していたより汚い部分に、裁判官をはじめとした裁判所の職員が関心を持ってくれていることは、実際のやり取りからわかっています。
4. 君は一人ぼっちじゃないんだ。きっと、いつかわかる。
結局のところ、裁判官が何でもやる『家栽の人』や『イチケイのカラス』のような形は、システム上も、あるいは人的資源の限界上も、不可能なのでしょう。そのように自由で柔軟な役割は、もっとも自由に動ける弁護士が補完することで、全体として良い形ができるのだと今では考えています。
裁判官も本当はやりたいかもしれないことをして、ただ形式的に終わるのとは異なる、ひとつのエピソードを成立させる。その一助となっていることに、私は誇りを持っています。
少年に良い未来を歩んでほしいという思いが、事件に関係する人の中で、弁護士一人ではないと信じられています。これから少年事件に携わる人全てに、桑田義雄の最後の言葉をお伝えしたいです。
「君は一人ぼっちじゃないんだ。きっと、いつかわかる。」
- こちらに掲載されている情報は、2021年12月27日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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