- (更新:2024年07月12日)
- 犯罪・刑事事件
意外と知らないわいせつ物頒布等罪の実務~アダルト動画で逮捕に至らないための豆知識~
「国立産業技術総合研究所の主任研究員が」「海上自衛官が」と逮捕者の属性から、売り上げが~億円というところまで、2021年11月にはアダルト動画配信を巡るニュースが立て続けに見られました。
インターネットの発達により、ネットでアダルトコンテンツを利用するのが通常となった今、市場規模もかなり広いことが、あらためてわかります。
ニュースを受けて、早速掲示板のスレッドが立ち、アフィリエイトサイトがまとめブログを作っています。そのような様子を見ていて、ふと気になりました。
そもそも、どこまでが違法でどこまでが大丈夫なのか、逮捕された人を含めてちゃんと理解しているのだろうか? と。
「モザイクをかければ大丈夫か?」「外国法人なら大丈夫か?」と言えば、実はそんなことはないです。
問題となる法律は、司法試験や通常の刑法の講義でもあまりメジャーではないため、意外とわかっていない人は、弁護士でもいるかもしれません。そんなわいせつ物頒布等罪について、今回は語ります。
1. 刑法175条わいせつ物頒布等罪の「わいせつ」とは? 時代で変化する規制
第175条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
これが、アダルトコンテンツを配信した時に問題とされる行為をさした条文です。最高裁判所いわく、「わいせつ」とは、「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」(最判昭和26年5月10日刑集5巻6号1026頁)をさすそうです。
何を言っているかよくわかりませんね? 実は私も、正確にはよくわからないです。
なぜならこれは、時代と社会による変化を許容できるよう、意図的に曖昧な定義を用いているからです。そのため、「わいせつ」であるかどうかは、常にその時代の人からの評価を基準に具体的に考えなければならず、いまだ明確に白と黒が定まっていないことがあります。
直近でもいわゆる「ろくでなし子事件」(最判令和2年7月16日刑集第74巻4号343頁)で、女性器をかたどった石こうのようものは「わいせつ」ではなく、女性器の三次元形状データは「わいせつ」であると、結論が別れました。このように、ギリギリの判断が生じるものも多いのです。それでは、モザイクや米国法人といった点は、どうでしょうか。
2. モザイク処理をすると原則「わいせつ」ではない…but
モザイクがあればセーフ、無修正だとアウトという基準は、何となく共有されているようです。
これは、おおむね間違っていませんが、一方正確でもありません。過去の裁判例では、モザイク処理された動画についてわいせつ性が認められたことがあります。そのような事例を集約すると、実務上のモザイクに関する正確な基準は、容易に復元して認識・閲覧できるなら、やはり「わいせつ」に該当すると言えます。
たとえば、モザイクをかけた動画配信に合わせて、そのモザイク処理を除去できる手段も伝えたり、そのようなツールを配布すれば、違法になってくると考えた方が良いでしょう。更に、技術の進歩によってモザイク除去技術がより一般的になれば、モザイクをかけたアダルト動画も「わいせつ」に該当するようになってくるかもしれません。
3. 海外への有償頒布は犯罪行為ではない、海外での頒布も犯罪行為ではない…but
わいせつ物頒布等罪は、日本の社会秩序を守るための法律です。海外の国々が、どのような性風俗を許容するかは、日本の法律が何か口出しをするところではありません。また、国際刑事法の規定で、日本人であれば国外における行為でも処罰しにいくこともあるのですが、わいせつ物頒布等罪はその対象になっていません(刑法3条)。したがって、外国に住んでいる人向けに売っていたり、専ら海外でそのような撮影や取引をしているなら、少なくとも日本法の問題にはならないわけです。
そして、このような論理からすると、日本の多くのアダルト動画販売者からすると、外国法人を作っていることは、犯罪の成立を妨げないことになります。今回FC2の関係で逮捕された人たちのニュースからもわかるように、動画配信者は日本で自ら撮影し、日本で配信サイトを運営し、日本人に売っています。これは、日本が取り締まるべき、日本の性風俗秩序に関する犯罪ということになります。
4. 法は法であり、知らぬは禍となる
このようにわいせつ物頒布等罪は、適用対象において、思ったよりテクニカルな検討が必要な犯罪です。
身もふたもないことを言ってしまえば、そこまでテクニカルな検討をして、公機関を動かして取り締まることにより、日本の社会秩序がどう守られているのかさっぱりわからないという気持ちもあります。これだけカオスと化しているインターネットで、今更……と。
とはいえ、法は存在しており、逮捕されたり前科がついたり、社会生活が終わるわけです。くれぐれもインターネットのいい加減な情報に基づかず、法に対する理解は正確にしておくことを、オススメします。
- こちらに掲載されている情報は、2024年07月12日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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