少年事件は甘いのか? 新少年法前夜の基礎知識

少年事件は甘いのか? 新少年法前夜の基礎知識

結論から言うと、「甘くない」です。

一般の人がニュースを聞いて「甘い」という感想を抱かれる事件は、そもそも少年法の問題ではないことが多いです。18歳未満だと死刑にしないといった規定は確かに少年法にあるのですが、その既定が理由で結論が変わっているという事案はまれです。大半は、単に刑法に基づく量刑評価の結論に過ぎません。そのため、おそらく少年法が関係しない成人の事件であっても、同じように「甘い」という感想を抱いていたでしょう。

また、少年法の手続きになっていることで、むしろ厳しくなっている実態があるのですが、少年法の手続きとして行われている限り裁判も公開されないため、その厳しい側面は一般の人に伝わる機会がないところも、誤解の要因と考えられます。

そこで、今回は少年法の厳しい側面について、ご紹介します。

1. 示談で逃げられぬ少年事件

少年事件では、犯罪があったのなら全て家庭裁判所に事件を送ることになっています。「全件送致主義」と言います。

たとえばお子さんが万引きをしてしまったとします。成人で前科前歴がないのなら、示談をして許してもらい、あるいは被害品を弁償するだけでも、不起訴になって特に裁判を受けることもないかもしれません。しかし、少年事件だと、家庭裁判所に行くことになります。

たとえばお子さんが性犯罪を行ってしまったとします。成人だと刑事裁判になる場合、公開の法廷で証言が必要になります。そのため、被害者は示談をし、刑事裁判への参加を望まないことがあります。そうすると、検察官も、無理に刑事裁判を行おうとはせず、不起訴にすることがあります。しかし、少年事件だと、被害者が出席しないでも裁判をすることができます。警察や検察で作成した調書だけで、事実認定は可能です。そのため、ルール通り、家庭裁判所に行くことになります。

犯罪行為があったのなら、裁判所からの評価を「絶対」受ける。これが、少年事件です。

2. 人間そのものが評価される少年事件 ~過程も結論も大人より厳しいことも~

「もう〇〇歳なら、大人だろう。大人と同じ扱いを受けさせろ。」と言う声も、少年法や少年事件に関するニュースでよく聞くものです。

しかし、成人の方が厳しい判断になるというのも誤解です。事件によっては、成人なら執行猶予で済むが、少年だと少年院に行かなければならないものもあります。これは、成人の刑事裁判が犯罪行為そのものに対する軽重の評価を基軸にするのに対し、少年事件では問題を起こした人間や、その家族の特性からどのような処分が教育に必要かという点を重視するからです。また、そのような審査対象の違いから、より人間としての奥底を、事件を起こした本人だけでなく家族も抉(えぐ)られることになります。

顕著に差があらわれるのは、初犯の強制わいせつ事件や痴漢のような迷惑防止条例違反事件です。わいせつ行為やわいせつからも外れる痴漢行為は、性的自由を奪うという点を犯罪とする刑法の評価だと、いわゆるレイプである強制性交ほど、重く評価することはできません。法定刑も、執行猶予が可能な懲役3年以下のレンジを、十分に取っています。そのため、成人の事件では、十分に執行猶予が見込めることになります。示談が成立しているなら、もう安全とまで考えられる場面も多いでしょう。

一方で、少年事件だと、そうはいきません。少年事件では、なぜ問題を起こしてしまったのか、それを少年がよく理解して再度の行為を防げるかという、「当人に対する評価」が重要な要素になります。性犯罪について、ただ反省を述べるだけでなく、なぜそのような誤った思考に至ったか、自らの考えを問われます。性的理解の有無、性行為への関心の経緯など、細かい説明が求められます。

また、「家庭」という言葉の通り、少年事件の裁判が行われる家庭裁判所は、家庭の問題に立ち入る機関です。そのため、少年が問題に至ってしまったところに、家族がどう悪影響を与えていたか、あるいは十分に養育できていなかったか、その点について理解し問題解決に向かえているかを評価します。裁判でも、当然のように家族の考えを裁判官から問われます。

示談の成立そのものは、決定的な要素でもありません。親がお金を出したこと自体は、少年の人間的側面に資するわけではないからです。(少年示談の要点については、過去コラムも参照「プロセスが大事な少年事件の示談~1歩進んだ示談の考え方~」)。

そして、以上のような判断要素について肯定的な評価が得られないと、少年院という結論が、普通に出てきます。少年院は罰ではなく、あくまで子どもの教育のために必要だから入れるという「やさしさ」「甘さ」が、当人からすると厳しい形で出てくるのです。

もちろん、成人の刑事事件でも、本当は上記のような真の問題解決に向けたアプローチは有効なのですが、そこまでしなくても刑務所に行かずに終われてしまうのが成人事件なのに対し、そこまでしておかないと少年院の可能性が十分にあるのが少年事件だ、ということです。

3. 1回の裁判で入ることになってしまう少年院

成人の事件では、控訴・上告と手続きが続き、元々勾留されていない事件ではそのまま勾留されず、勾留されている事件でも都度保釈の機会があります。

一方で、少年事件では、抗告という裁判の結論を争う手続きは存在するのですが、最初の家庭裁判所で結論が出てしまった時点で、少年院での処遇は始まってしまいます。大きな話題となった池袋の交通事故事件が、裁判所で争っている限り刑務所に入ることはないのと比較すると、その差が具体的に理解できるかもしれません。

4. 少年事件は「甘くない」

少年事件は非公開の手続きであり外部的な資料も多くなく、ただでさえブラックボックス化しやすい裁判所の手続きが、さらにわからないものとなっています。

少年事件についてよく学び、また実務経験を持っていないと、そもそも何をすれば良いのかについて、理解していない弁護士が多いというのも実情です。そのため、全手続きにおいて、その目的が達せられるだけの資源が投じられていないところはあるかもしれません。

ただ、少年法が要請する理念に従うと、不起訴で曖昧になることはなく、必ず裁判所の評価にさらされ、またその評価に応えるには、かなり根源的な問題解決のアプローチが必要になることは確かであり、そのために成人の事件よりも少年やその家族の人間性が掘り下げられているという事実については、ご留意いただきたく思います。

そして、いろいろと手を尽くしても、根源的な解決に至らないことがあるのが、少年事件の難しさであり、私たち携わる法曹関係者の悩みでもあります。本稿によって、少年法・少年事件の「甘くない」側面が、少しでも伝われば幸いです。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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