逆転の物語で更生できる未来を示せ ~示談だけではない情状弁護~

逆転の物語で更生できる未来を示せ ~示談だけではない情状弁護~

刑事弁護の世界には、ケースストーリー(Story of the case)という言葉があります。

元々、アメリカで陪審員が判断をする際に、検察側による有罪の物語と、弁護側の無罪の物語を比較して判断しているという研究結果から、無罪の物語を法廷で提示する必要があるという話がありました。したがって、ケースストーリーという言葉も、通常は、裁判員裁判のような一般人の事実認定者を対象に、有罪無罪を争う否認事件を想定して用いられることが多いようです。

しかし、物語として提示するというのは、より一般的に説得力のある表現方法だと私は考えています。語弊を恐れずに言えば、裁判官が刑事事実認定に用いるとされる論理構成は、下した判断に対する事後的な評価に対し、それがただの主観ではないということを説明するための技法です。実際、職業裁判官であっても、その通りの思考過程で事実認定をしているわけではないことは、裁判官と話す中で感じられるところがあります。人間である以上、わかりやすい形で入ってくる方が、認識に残りやすいのも確かです。ストーリーとして伝えることは、裁判官相手の裁判でも意味があります。

また、否認事件のように二者択一のストーリーをぶつけ合うのと異なり、刑を軽くし更生への道を示すための事実については、そもそも犯罪の立証を目指してきた捜査機関側は把握していないところも多く、弁護側が主導できる場面も自然と多くなります。

以上のようなポイントから、私は情状弁護においても、物語を伝えるという視点を、強く意識しています。そのより具体的なアプローチについて、本稿ではお話しします。

1. 情状弁護における逆転の物語とは、変化の物語である

犯罪があった以上、前提には犯罪に至るような原因があったことになります。犯罪の原因の多様性と、それを解明してのアプローチが執行猶予という結論につながることについては、過去のコラムでも記載しました(問題の原因を解明し執行猶予に導け ~示談だけではない情状弁護~)。法廷で示すストーリーも、このような要点が伝わるものであるべきです。問題が多様であり、人それぞれに考えがある以上、伝えるストーリーも事案ごとのものになるわけですが、情状弁護の場合共通して意識するのは、変化です。犯罪行為→刑事事件化→裁判と至ってきたどこかで、意識に変化が起きていないと、同じ問題を起こす可能性が高いと言えてしまいます。

前科がある場合も、これの応用です。前科1の裁判→前科2の裁判→本件の裁判と至ってくる中で、変化が生じていないと同じ問題を起こしてしまうと言えましょう。もっとも、前科がある場合は、通常、問題に気づく機会とそれに向き合う機会が与えられていたはずであるため、前科1や2ではなぜ気づけなかったか、あるいは気づきが足りていなかったかの説明も加えた上で、今までと本件では何が違うのかまで説明する必要があります。

このように、法廷で伝えるべき物語を考えていく中で、原因究明の部分、問題が何であったか、なぜいまだ解決していないのかという観点も、深まってきます。

2. 物語は真実でなければならない

ストーリーを、被告人に有利に提示すると言うと、まるで犯罪者にとって都合の良い話をでっちあげるかのように思われてしまうかもしれません。しかし、それは誤解です。弁護士は小説家ではありません。嘘の物語は、どのみち説得力もなく、裁判官に響きもしません。かわいそうな事情があるといった浪花節も、無駄です。

物語は真実でなければならない。もう少し踏み込んで言えば、真実だと認めてもらえるものでなければならないです。そのために大事なポイントとなることのひとつは、法廷外において行動としての事実が伴っていることです。

裁判所で「反省しています」「法律違反は悪いと思いました」と述べていても、それは口だけです。しかし、問題と向き合うべく、周囲の人と会議を行った場面、専門機関に行った場面、そういった法廷外の事実が積み重なれば、それは口だけの根なし草ではなくなります。

もちろん、こういう場面を演出する場合には、法廷技術のテクニックも役立ちます。尋問を行う際、法廷外の舞台設定を行うことで、取り組んでいる状況を視覚的にとらえることができます。たとえば、お酒を飲まないという誓いを真実として示したいとします。その際、家族や弁護士同席の会食の場面を先に持ってきて、周囲の人間がお酒を飲む中、被告人本人の目の前にはジュースが置いてあるという場面を描きます。その上で、なぜそういう状況だったかを問い、事件後お酒を飲まないと誓ったからだと話すと、法廷の外でも誓いを順守し続ける姿を、視覚的にとらえさせることができます。

3. 真実は未来に向けて今からでも作れる

ストーリーを語る上で、望ましい事実が常にそろっているとは限りません。その際、話を捏造(ねつぞう)してはいけないというのは「2.物語は真実でなければならない」に記載した通りです。一方で、語れるような事実を今から作っていくことは、可能です。

変化のきっかけが作れていないなら、弁護士が今からそういう刺激を与えていく。真実であることを証明できる証人と共に、行動の場面を設けていく。本人の気質を踏まえ、本人が違和感なく受け入れられる提案をしていく。

これを作為的と言われればそうかもしれませんが、私は、それを悪いとは思いません。このように行動を重ねていく中で、漫然と裁判に向かうよりも被告人の中で意識が高まっていき、本当に自身の問題を理解した良い状態が作れるからです。実際、私は、何度も失敗を重ねて全く理解に欠いていた人が、ある時理解をし、問題を真剣に語るようになった瞬間を目撃する経験をしました。これで良いのだと、確信しています。

望ましい物語を語れるようにすることにより、すでに起こっている事実について重要な気づきを得つつ、更生できる未来を現実のものとして示せる。これが、情状弁護においてケースストーリーを意識する、一番のメリットかもしれません。

ご本人にとって、ご家族にとって、良い物語を刑事裁判において提供する。そのようなお手伝いをすることができれば、私の本望です。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

最高の「わかる」体験をあなたに

  • こちらに掲載されている情報は、2021年09月14日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

お一人で悩まず、まずはご相談ください

まずはご相談ください

犯罪・刑事事件に強い弁護士に、あなたの悩みを相談してみませんか?

弁護士を探す

犯罪・刑事事件に強い弁護士

  • 関根 光一 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所

    茨城県 牛久市
    茨城県牛久市中央5-20-11 牛久駅前ビル201
    常磐線牛久駅徒歩1分
    *お車でご来所の際は、事務所近くのコインパーキングをご利用ください。
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     
    注力分野

    ★茨城県全域対応★「私たちはご本人に会ったり、示談交渉をしたりすることができます!」「また、一日も早く釈放されるように働きかけたり保釈申請も可能です」

  • 竹内 聡 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所

    茨城県 水戸市
    茨城県水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル7階
    常磐線水戸駅徒歩7分
    *お車でご来所される場合は、事務所近くのコインパーキングへ駐車くださいますようお願い申し上げます。
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     
    注力分野

    ★茨城県全域対応★「私たちはご本人に会ったり、示談交渉をしたりすることができます!」「また、一日も早く釈放されるように働きかけたり保釈申請も可能です」

  • 大久保 潤 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所

    茨城県 牛久市
    茨城県牛久市中央5-20-11 牛久駅前ビル201
    常磐線牛久駅徒歩1分
    *お車でご来所される場合は、事務所近くのコインパーキングへ駐車くださいますようお願い申し上げます。
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     
    注力分野

    ★茨城県全域対応★「私たちはご本人に会ったり、示談交渉をしたりすることができます!」「また、一日も早く釈放されるように働きかけたり保釈申請も可能です」

  • 田中 佑樹 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所水戸支所

    茨城県 水戸市
    茨城県水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル7階
    常磐線水戸駅徒歩7分
    *お車でご来所される場合は、事務所近くのコインパーキングへ駐車くださいますようお願い申し上げます。
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください。

     
    注力分野

    ★茨城県全域対応★「私たちはご本人に会ったり、示談交渉をしたりすることができます!」「また、一日も早く釈放されるように働きかけたり保釈申請も可能です」

  • 川戸 ひろか 弁護士

    弁護士法人長瀬総合法律事務所

    茨城県 牛久市
    茨城県牛久市中央5-20-11 牛久駅前ビル201
    常磐線 牛久駅徒歩1分
    *お車でご来所の際は、お近くのコインパーキングへ駐車ください。
    • 当日相談可
    • ビデオ相談可
    • 初回相談無料

    当日相談は日程調整ができない場合もありますので予めご了承ください

     
    注力分野

    ★茨城県全域対応★「私たちはご本人に会ったり、示談交渉をしたりすることができます!」「また、一日も早く釈放されるように働きかけたり保釈申請も可能です」

弁護士を検索する

最近見た弁護士

閲覧履歴へ