否認示談における矛盾とその克服方法~1歩進んだ示談の考え方~

否認示談における矛盾とその克服方法~1歩進んだ示談の考え方~

「示談してくれますか?」

犯罪の疑いをかけられた方、あるいはそのご家族から、しばしば耳にする言葉です。
このような誰でも知っている示談において、本当は考慮すべき点について、前回解説しました。しかし、示談はまだまだ考えるべき点があります。

今回は、示談の中でもさらに考慮を要する特殊なパターンとして、「否認事件における示談」をさらに掘り下げてみようと思います。

1. 否認示談のパラドックス

そもそも、否認事件における示談は、大いなる矛盾をはらんでいます。

否認とは、罪の成立を否定し、自分に刑事上の責任がないとする立場です。
一方で、示談とは、刑事事件の被害者とされる相手方におわびし、許しを求めるものです。論理的前提があっていません。

一方、嫌疑不十分などの不起訴を狙うために、あるいは、保険として減刑の根拠も獲得しておくためになど、さまざまな理由で、示談を試みることが有益であり、必要な場合があるのも確かです。

大事なのは、示談に成功したらメリットを得られる一方、否認事件における本来の目的である、「罪を否定したい」という目的との関係では、リスクも存在することをよく理解して、手続きに臨んでいくことです。

まずは、どのようなリスクがあるかを理解するためにも、簡単に、否認事件における前提状況を確認しておきましょう。

2. 否認事件は黙秘が原則

捜査機関に疑いをかけられた時、罪を否定するのに必要なことは、説明ではありません。これは、犯罪者を追求する側の思考になってみればわかることですが、誰だって自分が罪に問われたくないため、うそをつく可能性があるわけです。
捜査機関も、そのような警戒心を持って、基本的には罪を否定する言葉に対しては、嘘を暴くという姿勢で臨みます。そうすると、罪を否定する方向の説明に対しては、罪を肯定する方向の捜査で対応されてしまうことになります。

また、人の記憶は、かなり曖昧なものです。ちゃんと説明するつもりでも、間違ったことを言ってしまう危険があります。これ自体は、人間として決しておかしいことではないはずですが、犯罪の疑いをかけられているという状況では、ちょっとした記憶の誤りでも、嘘の弁解として取り上げられてしまいます。
特に画像や映像で残っている証拠については、捜査段階では、捜査側だけが自由にアクセスできる状況になるため、どうしても情報の格差が生じてしまいます。

一方で、刑事裁判では、基本的には裁判で話したものを中心に判断し、捜査段階で話したことは、裁判で話したことと矛盾していないかという観点でのみ用いられるのが通常です。捜査段階から一貫して同じことを言っていたからと、信用してもらえるわけではありません。

そうすると、否認事件で積極的に話すメリットは少ないということになり、原則としては黙秘対応が有効となります。

3. 示談は話さなければはじまらない

2でも述べたように、否認事件で疑われた側は、口を閉ざすのを基本戦略とします。一方で、示談交渉は、一定の立場を決めて話していかざるを得ません。

示談金の支払義務を認める前提として、どのような賠償すべき事実があるのかを確定させる必要があります。逆に、ただお金を渡したというだけでは、どんな問題を解決したのかわからず、刑事的にも民事的にもメリットを得られません。

相手方から、こちらの考えを聞かれることもあります。
全く答えずにいては、最低限の信頼関係も築けず、示談自体を拒否されてしまうかもしれません。しかし、相手方に話したことは、後に検察官にも伝わると思っておいた方が良いでしょう。特に弁護士をつけていない被害者は、唯一の相談できる法律家が、検察官になるからです。

また、捜査段階の立場は、裁判になっても維持するとは限りません。裁判の段階になって証拠を見ると、自分が正確に記憶していなかった点が明らかになり、一定の範囲では罪の成立を認める立場に変化することもあります。しかし、一度立場を決めて話してしまったら、後で立場を変化させると二枚舌のように見られ、被害者感情が悪化することもあるでしょう。

このように、示談交渉に臨む場合、黙秘などの対応で作っていた防壁が、ある程度は崩れていくことになります。示談にメリットが見込めるかの考慮は大前提ですが、否認示談では、罪の否定という本来の目的に対するリスクをも、しっかり念頭におきながら進める必要があります。

4. 戦略的否認示談のススメ

以上を踏まえて、具体的にどのようにしていくかの一例もご紹介します。

究極的には、事件の性質を踏まえてということになりますが、ある程度一般論化できるものもあると、今までの実務経験から感じているところです。

否認事件において、被疑者・被告人と相手方の供述は、何かしら相反する一方で、完全に相反しない時もあります。「人違いだ」という事件ならもうどうしようもないですが、ふたりの間でもめ事があったのは確かで、その時にどういうことがあったか、それぞれがどういう考えがあったかという部分から、疑われている犯罪の成立を否定できるといった事件も多いです。

意図は異なるものの傷つけてしまったなど、国から科される刑事責任は否定しながら、相手方に対しておわびすべき範囲もあるでしょう。この場合、争いのない共通点から、話をしていくことが可能です。

さらにもう一歩攻めた方法としては、被疑者・被告人が刑事責任を否定するのに重要な供述について、相手方にも事実として承認してもらうということも、場合によってはありえます。

詳しくは前コラムも参照していただきたいですが、嫌疑不十分しか狙えない事案では、ここまでしておかないと、論理的には不起訴が担保されていないことになるため、安全とは言えません。そのため、時としてはここまで交渉することもあります。

示談は誰でも思いつく手段ですが、一方で事案ごとに最適を考えていくと考慮すべき点は多いです。

「罪を否定しながら示談する」という矛盾がはらむ否認事件では、その考慮を怠ることで、被疑者・被告人となった依頼者やそのご家族に、思わぬリスクを負わせてしまう危険が大きくなります。そのような否認示談が必要とされる事件では、やはりちゃんと、根拠をもって提案できる弁護士に依頼することをオススメします。

杉山 大介
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