
虐待の時効は何年?犯罪となる虐待行為も紹介
虐待には、主に身体的虐待、性的虐待、ネグレクト(育児放棄)、心理的虐待の4種類があります。いずれの虐待も犯罪として罪に問われる可能性がある行為です。
もっとも、虐待には刑事および民事上の時効がありますので、虐待から一定期間が経過すれば時効により罪に問われるおそれがなくなり、慰謝料などの損害賠償請求をされる心配もありません。虐待行為に応じて時効期間や時効の考え方が変わりますので、しっかりと理解しておきましょう。
本記事では、虐待の種類と該当する犯罪、民事上の責任、虐待の刑事・民事それぞれの時効について説明します。
1. 児童虐待の定義とは?どんな行為が虐待になるのか
児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)とは、18歳未満の児童を虐待から守ることを目的とした法律です。
児童虐待防止法では、以下の4つの行為を児童虐待と定義し、児童虐待を禁止するとともに児童虐待の防止・早期発見、児童相談所への通告義務、児童虐待を受けた児童の保護・自立支援などの制度を定めています。
- 身体的虐待
- 性的虐待
- ネグレクト(育児放棄)
- 心理的虐待
これらの4種類の虐待行為の詳しい内容については、次章で解説します。
2. 児童虐待の種類と該当する犯罪
以下では、児童虐待防止法で定められている4種類の児童虐待の行為とそれにより成立し得る犯罪について説明します。
(1)身体的虐待
身体的虐待とは、児童の身体に外傷が生じ、または生じるおそれのある暴行を加えることをいいます。
具体的には、以下のような行為が身体的虐待にあたります。
- 殴る、蹴る
- 水風呂や熱湯の風呂に沈める
- カッターで切りつける
- アイロンを押し当てる
- 首を絞める
- ベランダに逆さ吊りにする
- 真冬に戸外に締め出す
このような行為をすると暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)、逮捕監禁罪(刑法220条)などの犯罪が成立する可能性があります。
(2)性的虐待
性的虐待とは、児童にわいせつな行為をする、または児童にわいせつな行為をさせることをいいます。
具体的には、以下のような行為が性的虐待にあたります。
- 子どもに対する性交
- 性的な行為の強要、教唆
- 性器を触る、性器を触らせる
- 子どもに性器や性交を見せる
このような行為をすると不同意わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(177条)、監護者わいせつ罪(刑法179条1項)監護者性交等罪(刑法179条2項)などの犯罪が成立する可能性があります。
(3)ネグレクト(育児放棄)
ネグレクトとは、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食、長時間の放置、保護者以外の同居人による身体的虐待・性的虐待・心理的虐待の放置など保護者としての監護を著しく怠ることをいいます。
具体的には、以下のような行為がネグレクトにあたります。
- 子どもを家に残して外出する
- 食事を与えない
- 衣服を着替えさせない
- 登校禁止にして家に閉じ込める
- パチンコに熱中して車内に子どもを放置する
- 病気なのに病院に連れて行かない
このような行為をすると保護責任者遺棄罪(刑法218条)、保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)などの犯罪が成立する可能性があります。
(4)心理的虐待
心理的虐待とは、児童に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応、家庭内における配偶者への暴力(DV)など児童に著しい心理的外傷を与える言動をいいます。
具体的には、以下のような行為が心理的虐待にあたります。
- 子どもを大声で脅して恐怖に陥れる
- 自尊心を傷つける言葉を繰り返し使う
- 子どもに対して無視や拒否的な態度をとる
- 兄弟姉妹間で差別をする
- 子どもが親のDVを目撃する
このような行為をすると脅迫罪(刑法222条)、保護責任者遺棄罪(刑法218条)などの犯罪が成立する可能性があります。
3. 民事責任も問われる
児童虐待が犯罪行為に該当する場合、刑罰による刑事責任が問われることになりますが、虐待をした行為者は、刑事責任だけではなく民事責任も問われる可能性があります。
児童虐待は、被害者である児童の権利や法律上保護された利益を違法に侵害する行為ですので、不法行為に基づいて被害者に生じた以下のような損害を賠償しなければなりません(民法709条、710条)。
- 治療費
- 慰謝料(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料)
- 後遺障害逸失利益
刑事裁判により罰金が科されたとしても、民事上の賠償責任がなくなるわけではありませんので、刑事責任とは別に民事責任も負わなければなりません。
4. 虐待の時効は刑事と民事の2種類
上記の通り、児童虐待をすると刑事責任と民事責任の2種類の法的責任が発生します。もっとも、これらの法的責任は、虐待から一定期間が経過すると「時効」により消滅することがあります。以下では、虐待の刑事および民事上の時効について説明します。
(1)刑事上の時効|公訴時効
公訴時効とは、犯罪発生から一定期間が経過すると検察官が起訴できなくなる制度です。
すなわち、公訴時効が完成すれば犯罪行為をしたとしても罪に問われることがなくなります。
①公訴時効期間
公訴時効期間は、犯罪の種類ごとに定められており、児童虐待により成立し得る犯罪ごとの公訴時効期間は以下のようになります(刑事訴訟法250条)。
罪名 | 公訴時効期間 |
---|---|
保護責任者遺棄致死罪 | 20年 |
不同意性交等罪 | 15年 |
監護者性交等罪 | 15年 |
不同意わいせつ罪 | 12年 |
監護者わいせつ罪 | 12年 |
傷害罪 | 10年 |
保護責任者遺棄罪 | 5年 |
暴行罪 | 3年 |
脅迫罪 | 3年 |
②公訴時効の起算点
公訴時効は、犯罪行為が終わったときから進行します(刑事訴訟法253条)。たとえば、子どもを殴ってけがをさせたときは、その時点から傷害罪の時効が進行しますが、けがをした子どもが数日後死亡してしまったときは、死亡した時点から傷害致死罪の時効が進行します。
③告訴期間
性犯罪を除き告訴が必要な犯罪(親告罪)は、犯人を知った日から6か月以内に告訴をしなければなりません(刑事訴訟法235条本文)。
しかし、児童虐待により成立する犯罪は、親告罪ではありませんので告訴期間の制限はありません。
(2)民事上の時効|消滅時効
消滅時効とは、一定の期間中、債権者による権利行使がなかった場合に、債務者の意思表示により、その債権を消滅させることができる制度です。
児童虐待により行為者には、不法行為に基づく損害賠償責任が発生しますが、被害者である当該児童から権利行使がなく一定期間が経過すれば時効により被害者の損害賠償請求権は消滅し、賠償責任を免れることができます。
児童虐待の時効期間は、原則として以下のいずれか早いときです(民法724条)。
- 損害および加害者を知ったときから3年
- 不法行為時から20年
ただし、人の生命または身体に対する不法行為については、被害者保護の観点から時効期間が延長され、以下のいずれか早いときになります(民法724条の2)。
- 損害および加害者を知ったときから5年
- 不法行為時から20年
なお、時を経てPTSDなどを発症した場合、5年の時効期間は症状発生時から起算される点に注意が必要です。
5. 時効完成を妨げる事由とは
時効には、一定の事由が生じた場合に時効の完成が妨げられることがあります。以下では、刑事および民事上の時効における時効の完成を妨げる事由について説明します。
(1)刑事の「時効の停止」
公訴時効は、一定の事由が生じるとその間、時効期間の進行が停止します。具体的な公訴時効の停止事由には、以下のものがあります(刑事訴訟法254条、255条)。
- 公訴の提起
- 共犯者に対する公訴の提起
- 加害者が国外にいる場合
- 加害者が逃げ隠れをしているため有効に起訴状の送達・略式命令の告知ができない場合
(2)民事の「時効の更新・完成猶予」
消滅時効には、一定の事由が生じると時効の進行がストップする「時効の完成猶予」と時効期間がリセットされる「時効の更新」という制度があります(民法146条~152条)。
①時効の完成猶予
- 裁判上の請求(事由終了まで完成猶予)
- 強制執行(事由終了まで完成猶予)
- 仮差押え(事由終了から6か月間の完成猶予)
- 協議を行う旨の合意(催告後6か月間の完成猶予)
- 催告
②時効の更新
- 裁判上の請求(権利の確定により更新)
- 強制執行(事由終了により更新)
- 承認
6. 児童虐待で訴えられた時はどうすればいいか
児童虐待で訴えられた場合、刑事および民事上の責任が発生する可能性がありますので、適切な対応をするためにもすぐに弁護士に依頼するようにしてください。
弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉を任せることができますので、早期に被害者との示談を成立させることができれば、刑事事件であれば逮捕の回避、早期釈放、不起訴処分の獲得などの可能性が高くなります。
また、民事事件であれば示談成立により民事上の賠償責任を果たしたことになりますので、これ以上金銭を請求される心配もありません。
さらに、過去の児童虐待であれば刑事および民事上の時効が成立している可能性があります。時効完成の有無を正確に判断するためにも具体的に行動する前に一度弁護士に相談すべきでしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2025年06月04日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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