詐欺未遂罪とは?成立要件、刑罰と逮捕後の手続き、刑を軽くする方法

詐欺未遂罪とは?成立要件、刑罰と逮捕後の手続き、刑を軽くする方法

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

詐欺未遂罪とは、人を騙して財産の交付を受けようとしたものの、それに失敗した場合に成立する犯罪です。詐欺の未遂であったとしても犯罪が成立しますので、詐欺罪と同様に厳しい処罰を受ける可能性があります。
少しでも罪を軽くするためにも早期に弁護士に相談して、適切な弁護活動をしてもらうことが大切です。
本コラムでは、詐欺未遂罪の概要、逮捕後の手続き、処分・刑罰を軽くする方法などについて解説します。

1. 詐欺未遂罪とは

詐欺未遂罪とは、どのような犯罪なのでしょうか。以下では、詐欺未遂罪の概要を説明します。

(1)詐欺未遂罪の構成要件

詐欺未遂罪は、「詐欺」が「未遂」に終わった場合の犯罪ですので、以下では、詐欺罪の構成要件と未遂罪の構成要件に分けて説明します。

①詐欺罪の構成要件

詐欺罪は、以下の要件を満たした場合に成立する犯罪です(刑法246条)。

  • 詐欺行為(欺罔(ぎもう)行為)
  • 被害者等の錯誤
  • 処分(交付)
  • 財物(財産上の利益)の移転
  • 上記についての因果関係

簡単にいえば、人を騙して金品の交付を受けた場合に成立する犯罪ですが、代金を支払う意思がないのにサービスの提供を受けて、踏み倒すなどの行為も、財産上の利益を得ていますので、詐欺罪(2項詐欺罪)が成立します。

②未遂罪の構成要件

未遂罪とは、犯罪の実行に着手したものの、これを遂げなかった場合に成立する犯罪です(刑法43条)。刑法では、既遂犯の処罰を原則としており、未遂犯の処罰規定が設けられている場合に限り、未遂の処罰ができるとされています。
刑法250条で詐欺の未遂を処罰する旨の規定が設けられていますので、詐欺未遂罪は犯罪として処罰されることになります。
欺未遂罪は、詐欺罪の「詐欺行為(欺罔行為)」をしたものの、その他の要件が認められない場合に成立します。たとえば「オレオレ詐欺」で、被害者を騙そうと息子のふりをして電話をしたものの、途中で被害者が詐欺だと気づいて、お金を振り込んでもらえなかったような場合です。
なお、犯罪の実行に着手したものの、自分の意思で犯罪行為を中止した場合は「中止未遂」にあたり、刑の必要的減軽(必ず減刑される)を受けられます。

(2)詐欺罪(既遂)との区別

詐欺罪(既遂)と詐欺未遂罪は、詐欺行為に基づく財物の交付があったかどうかにより区別されます。簡単にいえば、被害者に実害が生じているかどうかが基準となります。
たとえば「オレオレ詐欺」で、被害者を騙そうと息子のふりをして電話をしたものの、途中で被害者が詐欺だと気づいて、お金を振り込んでもらえなかった場合が詐欺未遂罪、被害者が騙されてお金を振り込んでしまった場合が詐欺罪(既遂)です。

(3)詐欺未遂罪の法定刑

詐欺未遂罪は、詐欺既遂罪の法定刑と同様に、10年以下の懲役となります。 ただし、未遂犯については、刑法43条により「任意的減軽」が定められています。

(未遂減免)

刑法43条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

参照:刑法 | e-Gov 法令検索「第八章 未遂罪

刑の減軽を行うかどうかは、裁判官の判断に委ねられていますが、減軽が行われれば、法定刑の上限と下限がそれぞれ2分の1になりますので、詐欺既遂罪よりも軽い刑が科されることになります。

2. 詐欺未遂罪での処罰状況は?

実務における詐欺未遂罪の処罰状況はどうでしょうか。以下、実際の統計資料に基づいて、詐欺未遂罪の処罰状況を説明します。

(1)起訴・不起訴の分かれ目は?

令和5年(2023年)版犯罪白書によると、詐欺罪で起訴された事件は7669件、不起訴になった事件は8324件でしたので、起訴率は約48%となります。犯罪全体の起訴率は約32%ですので、詐欺罪で立件されると、起訴される可能性が高いことがわかります。この統計では、詐欺既遂罪と詐欺未遂罪を含んでおり、詐欺未遂罪のみの起訴率ではありませんが、一応の参考にはなるでしょう。
詐欺事件を起訴するかどうかは、検察官の判断に委ねられており、罪を犯したと疑われる場合であっても、検察官はさまざまな事情を考慮して事件を不起訴(起訴猶予)にすることができます。検察官は、主に以下のような事情を考慮して起訴・不起訴の判断を行っています。

  • 犯人の性格、年齢、境遇
  • 犯罪の軽重
  • 被害の軽微性
  • 前科、前歴の有無
  • 示談の有無

詐欺未遂罪は、被害者に損害が発生していませんので、詐欺既遂罪に比べれば不起訴処分の可能性が高い犯罪といえるでしょう。

(2)初犯で起訴された場合の相場は?

詐欺未遂罪には、罰金刑はありませんので、起訴されて有罪になれば「懲役刑の実刑判決」または「執行猶予付き判決」のいずれかになります。
執行猶予は、以下の条件を満たした場合に付けることができます。

  • 判決内容が3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金
  • 過去に禁錮以上の処罰を受けていない、または刑の執行終了日または刑が免除された日から5年以内に禁錮以上の処罰を受けていない

詐欺罪の初犯であればいずれの要件も満たしますので、情状面などを考慮して、執行猶予付き判決が言い渡される可能性も十分にあります。

他方、実刑になった場合でも初犯であれば1~3年程度の懲役になるケースが多いです。

3.詐欺未遂罪で逮捕された場合の手続きの流れ

詐欺未遂罪で逮捕された場合、以下のような流れで手続きが進んでいきます。

(1)逮捕・勾留(起訴前勾留)

詐欺未遂罪で逮捕されると、警察署内の留置場で48時間以内の身柄拘束を受けて、その後、身柄が検察官に送致されます。検察官は、送致から24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断し、勾留する場合は裁判官に勾留請求を行います。
裁判官が勾留を許可すると、原則として10日間の身柄拘束が開始し、勾留延長も許可されればさらに最長10日間の身柄拘束が行われます。
身柄拘束中の被疑者は、警察官による取り調べを受けることになりますが、自己の権利を守るためにも、以下のような手段を検討するようにしましょう。

  • 当番弁護士制度の利用(弁護士会):無料で1回、弁護⼠を呼んで相談できる権利
  • 弁護人依頼権の行使(憲法34条後段):弁護人に依頼する権利
  • 接見交通権の行使(刑事訴訟法39条1項):弁護人との面会等をする権利

特に、当番弁護士制度は、捜査官に一言、「当番弁護士を呼んでください」と伝えれば利用できます。

(2)起訴後勾留・公判

検察官により事件が起訴されると、身柄拘束は、種類が「起訴前勾留」から「起訴後勾留」に切り替わって継続します。
起訴前勾留は、勾留延長を含めても最長で20日間ですが、起訴後勾留は原則2か月間で、勾留を継続する必要があるときは1か月ごと何度でも更新できるという違いがあります。また、訴訟となれば法律上、検察官と被告人は対等な訴訟当事者ですので、起訴後勾留中の被告人には取り調べに応じる法的義務(取調べ受忍義務)がないと考えられています。
なお、起訴後勾留に切り替わった後は、保釈請求が可能なので、裁判所に保釈が許可されれば「保釈保証金」を納めることで、身柄拘束から解放してもらえます(刑事訴訟法93条参照)。

4. 詐欺未遂罪で逮捕された場合の弁護士の役割の重要性

詐欺未遂罪で逮捕された場合、弁護士による弁護活動が重要になります。

(1)身柄拘束を早期に免れさせる

詐欺未遂罪で逮捕・勾留されると最長で23日間にも及ぶ長期の身柄拘束を受けることになります。身柄拘束期間が長くなればなるほど、被疑者の負担や生じる不利益も大きくなりますので早期の身柄解放が重要になります。
弁護士に依頼すれば、被害者との示談交渉、勾留決定に対する準抗告などの手段により早期の身柄解放を実現することができます。弁護士の初期の最大の役割といえますので、逮捕されたときは、一刻も早く弁護士に依頼するようにしましょう。

(2)捜査機関による人権侵害防止

捜査機関による取り調べでは、長時間の取り調べや自白の強要などの人権侵害が生じるケースもあります。このような場合、弁護士がいれば捜査機関による違法な人権侵害に対して、抗議や警告を発することができますので、人権侵害の防止が期待できます。
また、逮捕中に面会できるのは弁護士だけですので、早期に弁護士と面会して取り調べに対するアドバイスを受ければ、不利な供述調書を作成されるリスクを軽減することが可能です。

(3)訴訟での弁護活動

詐欺未遂罪で起訴されれば、ほとんどの事件が有罪となってしまいます。そのため、訴訟では主に執行猶予付き判決の獲得を目指して弁護活動を行っていくことになります。
起訴されるまでに示談が成立しなかったとしても、起訴後も粘り強く交渉を続けることで示談がまとまり、執行猶予付き判決を獲得できる可能性が考えられます。

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  • こちらに掲載されている情報は、2025年02月28日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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