
時効がない罪とは?刑事事件で時効の存在しない犯罪について解説
何らかの罪を犯しても、一定期間が経過すると「時効」が完成し、罪に問われなくなることがあります。
ただし、法改正により現在では、一部の犯罪で「公訴時効」が廃止されているため、「時効がない罪」もあることに注意が必要です。
1. そもそも時効とは?
法律上の時効には、以下のとおり、いくつかの種類があります。
(1)刑事事件に関する公訴時効
刑事事件に関しては、「公訴時効」と「刑の消滅時効」の2種類があります。
このうち、「公訴時効」とは、罪を犯した後に一定期間が経過すると、検察官が公訴提起(起訴)できなくなる制度のことです(刑事訴訟法第250条)。
公訴時効の制度が設けられている主な理由として、次の2点が挙げられます。
- 犯罪発生後、時間の経過に伴い被害者の処罰感情などの社会的影響が薄れることにより、処罰の必要性が乏しくなること
- 長期間が経過した後では証拠の散逸などにより、適正な訴追が難しくなること
公訴時効期間は、「犯罪行為が終わった時」から進行し始めます(同法第253条1項)。ただし、犯人が国外にいる場合や、逃げ隠れしているために起訴状謄本を送達できなかった場合などでは、時効の進行が停止することに注意が必要です(同法第255条1項)。
公訴時効が完成すると起訴されなくなるので、基本的に逮捕されることもなくなります。万が一、起訴されても免訴判決が言い渡されて裁判手続きが打ち切られるため、刑罰を科せられることはありません(同法第337条4号)。
(2)刑事事件における「刑の消滅時効」
「刑の消滅時効」とは、刑事裁判の有罪判決における刑の言い渡しが確定した後、一定期間が経過すると、その刑の執行が許されなくなる制度のことです(刑法第32条)。
ただし、通常は刑の言い渡しが確定すると速やかに執行されてしまうため、刑の消滅時効が完成することはほとんどありません。
それでも、在宅起訴されて身柄を拘束されないまま刑事裁判を受けた被告人が、有罪判決後に逃亡した場合は、刑の消滅時効が完成することもあり得ます。
(3)民事上の時効
民事上の時効には、「取得時効」と「消滅時効」の2種類があります。
①取得時効
「取得時効」とは、他人の物を所有の意思を持って一定期間占有すると、その所有権を取得できる制度のことです(民法第162条)。
取得時効が完成するまでの期間は、以下のとおりです。
- 占有し始めたとき、自分の物であると過失なく信じていた場合…10年
- 占有し始めたとき、自分の物ではないことを知っていたか、過失によって知らなかった場合…20年
窃盗事件や詐欺事件、横領事件などで他人の物を手に入れた場合でも、20年間占有し続けると、その所有権を時効取得する可能性があります。
②消滅時効
「消滅時効」とは、権利が一定期間行使されなければ、その権利が消滅するという制度のことです。
売買や貸金などに基づく債権の消滅時効期間は、以下のとおりです(民法第166条)。
- 権利を行使することができることを知った時から5年
- 権利を行使することができる時から10年
刑事事件でも、被害者から加害者に対する民事上の損害賠償請求権が発生することがあります。不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、以下のとおりです(民法第724条、第724条の2)。
- 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間(被害者が負傷または死亡した場合は5年)
- 不法行為(犯罪行為)の時から20年
ただし、2020年3月31日以前に発生した請求権については旧民法が適用されるため、消滅時効期間は異なります。
2. 公訴時効がない罪とは
多くの犯罪には公訴時効がありますが、一部には公訴時効がない罪もあります。
(1)法改正で一部の犯罪は公訴時効が廃止された
かつてはすべての犯罪に公訴時効がありましたが、2010年の刑事訴訟法改正により、「人を死亡させた罪で、死刑に当たるもの」については公訴時効が廃止されました。
このような重大犯罪については、時間が経過しても被害者や社会の処罰感情が希薄化しないことが多いといえます。また、近年ではDNA鑑定などによる科学的な捜査手法が確立されたことから、長い期間が経過した後でも証拠を確保することが可能となってきています。
このような事情を背景として、「時間が経過したからといって重大犯罪の犯人を許すべきではない」という世間の声が高まり、法改正に至ったのです。
法改正後の規定は、2010年4月27日から施行されています。
なお、窃盗罪や詐欺罪、傷害罪など「人を死亡させた罪」に当たらないものについては、法改正後も以前と同じ公訴時効制度が認められています。
(2)代表的な罪名
公訴時効が廃止された犯罪の代表例として、次の3つの罪名があげられます。
罪名(罰条) | 法定刑 |
---|---|
殺人罪(刑法第199条) | 死刑または無期もしくは5年以上の懲役 |
強盗致死罪(同法第240条後段) | 死刑または無期懲役 |
強盗・不同意性交等致死罪(同法第241条3項) | 死刑または無期懲役 |
これらの犯罪についても、法改正前は25年の公訴時効がありました。そのため、たとえば1980年に犯された殺人罪については、2005年までに起訴されなければ公訴時効が完成しているため、現在において刑事訴追されることはありません。
しかし、法改正前に行われた犯罪でも、2010年4月27日の時点で公訴時効が成立していなかったものについては、法改正後の規定が適用されます。たとえば、1990年に犯された殺人罪については、2010年の時点で公訴時効が完成していません。そのため、公訴時効がないことになり、犯罪行為から25年以上が経過した現在においても逮捕されたり、起訴されたりする可能性があります。
3. 時効で不安な場合は弁護士に相談を
公訴時効が廃止された罪では、犯行の時期により公訴時効が適用されるかどうかが異なります。 2010年4月27日の時点で犯行から25年以上が経過していても、知らないうちに公訴時効が停止している可能性があることにも注意が必要です。たとえば、自分が知らないうちに共犯者が起訴されていれば、そのときから共犯者に対して言い渡された刑が確定するまでの間、公訴時効は停止します。その結果、公訴時効が完成しないまま2010年4月27日を迎えていたとしたら、もう公訴時効が適用されることはありません。
公訴時効が適用されない場合は、1日も早く自首した方が賢明です。刑事事件の被疑者となれば、逃亡することは困難だからです。
逃げ隠れしていると、「警察に見つかれば逮捕される」という不安を常に抱えることになるでしょう。住民票を移さずに逃亡した場合には、行政サービスを受けられないなど、不便な生活を強いられることになります。公訴時効が適用されない罪を犯して逃亡すれば、このような生活を生涯にわたって続けなければなりません。
しかし、捜査機関が犯人を特定する前に自ら警察に出頭すれば、自首が成立し、刑が減軽される可能性が高くなります(刑法第42条1項)。法律上の自首が成立しない場合でも、自ら出頭して犯行を申告したことはプラスの情状として扱われるので、刑の減軽は十分に期待できます。
自首をお考えの際は、弁護士へのご相談をおすすめします。取り調べでの受け答えのポイントについて、あらかじめアドバイスが受けられます。逮捕・勾留されてしまった場合には、弁護士が接見に来てくれて、励ましやアドバイスをしてくれます。
さらに、弁護士は被害者側との示談交渉を代行したり、起訴・不起訴について検察官に働きかけたり、刑事裁判では被告人に有利な証拠を提出するなどして、少しでも処分が軽くなるように尽力してくれます。
ご自身やご家族が何らかの罪を犯し、時効が気になるときは、お早めに弁護士までご相談ください。
- こちらに掲載されている情報は、2025年02月03日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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