痴漢の時効|刑事と民事で期間が異なる! 後日逮捕の可能性はある?

痴漢の時効|刑事と民事で期間が異なる! 後日逮捕の可能性はある?

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

痴漢をしたら相手の女性に叫ばれて、そのまま逃げた。

――いつまで逃げたら自分は処罰されないで済むのだろう?

――このまま逃げ続けたら逮捕されて刑務所に行かなければならないのだろうか?

つい出来心で痴漢をして逃げてしまったら、こんな不安に駆られることもあるかもしれません。そこで今回は、痴漢の時効と後日逮捕される可能性について解説します。

1. 「痴漢」の刑事上の時効(公訴時効)

時効には、「刑事上の時効」「民事上の時効」の2種類があります。ここではまず、刑事上の時効である公訴時効について解説します。

(1)公訴時効とは

刑事上の時効である公訴時効とは、犯罪行為をした者に対し、犯罪発生時から一定期間を経過すると公訴提起(起訴)ができなくなるという制度をさします。

公訴時効期間は、犯罪の種類と刑罰の重さによって異なります。

(2)痴漢行為をした場合の公訴時効期間

痴漢行為は、地方公共団体ごとの「迷惑行為防止条例違反の罪」または刑法の「不同意わいせつ罪」のいずれかに該当します。したがって、どちらに該当するかによって公訴時効期間が異なります。

① 迷惑行為防止条例違反

・公訴時効期間

痴漢行為が迷惑行為防止条例違反の罪に問われる場合、法定刑は自治体によって異なりますが、東京都の場合は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されます。他の自治体もほぼ同程度の比較的軽い刑罰が科されます。

この場合、公訴時効期間は痴漢をした日から3年です(刑事訴訟法250条)。

・構成要件と具体例

迷惑行為防止条例の規制内容は自治体によって異なりますが、東京都の場合、「公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること」という要件を満たす場合に、痴漢行為として処罰されます。

対象となる痴漢行為は比較的軽微なものですと、例えば、電車内や路上で、着衣の上から体に触れる行為や、腕や手足といった部位に触れる行為が該当します。

②不同意わいせつ罪

・公訴時効期間

痴漢行為が不同意わいせつ罪(刑法176条)に問われる場合、法定刑は6か月以上10年以下であり、迷惑防止条例違反のケースに比べて非常に厳しく処罰されることとなります。

公訴時効期間も長くなり、痴漢行為をした日から12年です(刑事訴訟法250条3項3号)。

・成立要件と具体例

不同意わいせつ罪の成立要件は、被害者が16歳以上か、16歳未満かによって異なります。

【16歳以上の被害者に対し痴漢行為をする場合】

  1. 暴行もしくは脅迫を用いること、またはそれらを受けた状態に乗じること
  2. 心身の障害を生じさせること、またはそれがある状態に乗じること
  3. アルコールもしくは薬物を摂取させること、またはそれらの影響がある状態に乗じること
  4. 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態に乗じること
  5. 同意しない意思を形成し、表明しまたは全うする時間がないこと
  6. 予想と異なる事態に直健させて恐怖させ、もしくは驚愕させること、またはそうさせられた状態に乗じること
  7. 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがある状態に乗じること
  8. 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮している状態に乗じること
  9. 行為がわいせつなものではないと誤信させ、もしくは行為をする者について人違いをさせ、またはそうさせられた状態に乗じること

なお、1の「暴行・脅迫」は広くとらえられており、殴る、蹴る、怒鳴るといったものは特段必要なく、わいせつ行為そのものにより被害者が恐怖を感じた場合も含まれます。

【16歳未満の被害者に対し痴漢行為をする場合】 ※被害者が13歳以上の場合は5歳以上年上の加害者に限る

上記の1から9の要件は求められておらず、単にわいせつな行為をすれば、成立します。

痴漢行為が不同意わいせつ罪に成立する具体例としては、電車内で、スカートや下着の中に手を入れて陰部を触る場合や、飲酒して被害者が酩酊しているすきに下着の下に手を入れて陰部を触るような場合が該当します。

2. 「痴漢」の民事上の時効(消滅時効)

痴漢行為を行った場合、加害者は、被害者から不法行為に基づく損害賠償請求権を行使されることがあります(民法709条、710条)。

すなわち、被害者は加害者に対し、痴漢行為より被った精神的苦痛について慰謝料を請求することが可能です。また、痴漢行為により怪我をしたり精神的なダメージを強く受けたりして病院で治療を受けた場合には、治療費等を請求することができます。

民事上の時効はこれらの権利をいつまで請求できるかというものであり、消滅時効といいます。

(1)消滅時効とは

消滅時効とは、相手方が持っている請求権が一定期間行使しないことにより消滅すること、あるいは消滅する期間のことをさします。

なお、公訴時効とは異なり、民法上は時効期間が経過するだけでは消滅時効は完成せず、時効完成により利益を受ける者(痴漢の場合は痴漢行為をした人)が主張(援用)することによって確定的に権利消滅の効果が発生します。

(2)痴漢(不法行為)の消滅時効

不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)の消滅時効は以下の通りです(民法724条、724条の2)。

  • 損害および加害者「知った時から3年
  • 人の生命または身体を害する行為については損害および加害者を「知った時から5年
  • 行為(痴漢)の時から20年

以上からすると、痴漢行為が「迷惑防止条例違反」に該当する場合には、被害者が損害および加害者を知った時から3年の時効が適用される可能性が高いものの、暴行を伴い「不同意わいせつ罪」に該当する場合には、5年の時効が適用される可能性が高いといえます。

なお、加害者が不明のまま20年経過した場合も、時効が成立します。

3. 痴漢事件は後日逮捕される可能性もある

痴漢は、現行犯逮捕されることや在宅事件として取り扱われることが多く、その場で逮捕されなければ、後日逮捕されることは少ないと考えられがちです。

しかし、実際にはそうではなく、防犯ビデオ画像などから犯人が明らかになった場合には、捜査の必要性や逃亡・罪証隠滅の恐れなどを考慮したうえで、後日逮捕される可能性もあります。

以下では、痴漢行為により逮捕される場合の流れについて解説します。

(1)捜査機関による捜査

痴漢事件について捜査が行われるきっかけは、主に、被害者が、痴漢被害に遭ったことについて、警察署に被害届を出すことです。

被害届が出された後、捜査機関がどのような痴漢行為がなされたのかを確認するため、事件現場の防犯カメラの映像を解析したり、被害者から痴漢被害に遭った当時の状況等について事情聴取が行われたりします。

この時点で加害者が判明している場合には、加害者から任意で事情を聞くこともあります。

(2)刑事処分までの手続きの流れ

捜査によって入手した証拠資料や被害者・加害者から聴取した事件当時の事情に加え、加害者が捜査に協力的か、身元引受人がいない、住所が定まっていない、無職などの事情により逃亡の恐れがないかなどを総合的に考慮して、警察は逮捕状を請求し、加害者を逮捕することになります。

逮捕後は、必要があれば48時間以内に検察官に送致されます(刑事訴訟法203条)。

送致後、検察官は、勾留の必要性があると判断すれば24時間以内に裁判官に対し「勾留」の請求(同205条1項)を行います。逮捕から勾留請求までの時間は、合計72時間を超えてはなりません(刑事訴訟法205条2項)。

勾留は原則として10日間であり、身体拘束された状態で取調べが進められます。なお、勾留は最大10日間延長することが可能です(刑事訴訟法208条)。

そして、検察官により処罰が必要と判断された場合には起訴されることとなります。

初犯で罰金刑が相当と考えられる場合には、略式起訴といって、簡易的な裁判手続が採用されて釈放されることもあります。

4. 最後に

以上で解説したところからわかるとおり、痴漢行為をすると、公訴時効が完成して処罰を免れられるまで少なくとも数年の期間を要します。

現在は防犯カメラが公共の場所には多数設置されていることなどを考えると、この間逃げ通すことは至難の業といえます。

また、長期間逃げ回ると、反省していないと評価され、逮捕される危険性が高くなるばかりか、重い刑罰が科されたり、高額の慰謝料を請求されたりする危険性が高くなります。

痴漢行為について逮捕や重い処罰を免れるためには、自首したうえで被害者との間で示談をすることが最も有効です。

被害者との間で早期に示談交渉を始めれば、逃亡や罪証隠滅の恐れがないと捜査機関に評価され逮捕されるリスクが低くなります。

また、示談が成立し、被害者が被害届を取り下げてくれれば処罰の必要性が低くなるので不起訴となり、処罰を免れる可能性があります。

被害者と示談するためには、弁護士に依頼をすることが必要となります。

弁護士に依頼をすれば、示談交渉を任せられるだけではなく、捜査機関の取り調べにどのように対応すべきかのアドバイスを受けることもできます。

弁護士JP編集部
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