
前科があると海外旅行に行けない? パスポートの取得等への影響とは
前科があると、海外旅行に必要なパスポートを取得できないことがあります。前科が付くことを避けるためには、犯罪捜査の対象になった時点で速やかに弁護士へ相談しましょう。
本記事では、前科がパスポートの取得に影響を与えるケースなどを解説します。
1. 前科とは?
「前科」とは、刑事裁判によって有罪判決を受けた経歴を意味します。
有罪判決が確定した時点で前科が付きます。執行猶予が付された場合も同様です。
前科が消えることはありませんが、法律上は以下の期間が経過すると刑の言い渡しが効力を失い、前科がないのと同じ取り扱いに戻ります。
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全部執行猶予付き判決の場合
執行猶予の言い渡しを取り消されることなく、猶予の期間を経過したとき(刑法27条)
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罰金以下の実刑判決の場合
刑の執行を終わり、罰金以上の刑に処せられないで5年を経過したとき(刑法34条の2-1項後段)
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禁錮以上の実刑判決または一部執行猶予付き判決の場合
刑の執行を終わり、罰金以上の刑に処せられないで10年を経過したとき(刑法34条の2-1項前段)
前科があると、再犯時に刑が加重されることがあるほか(刑法56条~59条)、就職活動において不利益に取り扱われることや、パスポートの発給を受けられないことなどがあります。
なお、「前歴」は犯罪捜査の対象になった経歴を意味します。
有罪判決が確定した場合に付く「前科」とは異なり、「前歴」は単に取調べを受けただけでも残ります。その反面、前歴には前科のような具体的な不利益がありません。
前科と前歴は、総称して「犯罪歴」と呼ばれることもあります。
2. 前科・前歴を理由にパスポートを取得できないケース
旅券法13条では、前科や前歴があることを理由に、一般旅券(パスポート)を発給しないことができる場合を定めています。
以下のいずれかに該当する場合には、パスポートが発給されず、海外旅行へ行けないことがあるのでご注意ください。
(1)渡航先の法規によって入国が認められない場合
渡航先において施行されている法規により、その国に入ることが認められない者には、パスポートを発給せず、または渡航先の追加をしないことができます(旅券法13条1項1号)。
たとえば、渡航しようとする国が、日本を含む外国において前科がある者の入国を一切認めない場合には、パスポートの発給や渡航先の追加が認められない可能性が高いです。
(2)死刑・無期・長期2年以上の刑に当たる罪について、訴追等をされている場合
死刑・無期・長期2年以上の懲役または禁錮に当たる罪につき、以下のいずれかに該当する者には、パスポートを発給せず、または渡航先の追加をしないことができます(旅券法13条1項2号)。
- 訴追されている者
- 犯罪の疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状または鑑定留置状が発せられている旨が、関係機関から外務大臣に通報されている者
(3)禁錮以上の有罪判決を受けた場合(執行猶予期間中を含む)
禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでまたは執行を受けることがなくなるまでの者には、パスポートを発給せず、または渡航先の追加をしないことができます(旅券法13条1項3号)。
禁錮以上の実刑判決が確定した場合に加えて、執行猶予付き判決が確定した場合も、パスポートの発給を受けられないことがあるので注意が必要です。
(4)旅券法違反の罪によって刑に処せられた場合
旅券法に違反する以下の犯罪行為によって刑に処された者には、パスポートを発給せず、または渡航先の追加をしないことができます(旅券法13条1項4号)。
- 申請書類等の虚偽記載、その他不正の行為による旅券または渡航書の取得
- 他人名義の旅券または渡航書の行使
- 行使の目的による、自己名義の旅券または渡航書の譲渡、貸与
- 行使の目的による、他人名義の旅券または渡航書の譲渡、貸与、譲受け、借受け、所持
- 行使の目的による、旅券または渡航書として偽造された文書の譲渡、貸与、譲受け、借受け、所持
- 旅券の返納命令に従わない行為
- 効力を失った旅券または渡航書の行使
(5)旅券・渡航書の偽造等によって刑に処せられた場合
以下のいずれかの行為をし、公文書偽造等罪(刑法155条1項)または偽造公文書行使等罪(刑法158条)によって刑に処せられた者には、パスポートを発給せず、または渡航先の追加をしないことができます(旅券法13条1項5号)。
- 旅券または渡航書の偽造
- 旅券または渡航書として偽造された文書の行使
- 上記の各行為の未遂
(6)日本国の利益・公安を害するおそれがある場合
上記に該当する場合のほか、外務大臣において、著しくかつ直接に日本国の利益または公安を害する行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者には、パスポートを発給せず、または渡航先の追加をしないことができます(旅券法13条1項7号)。
外務大臣が上記の認定をしようとするときは、あらかじめ法務大臣と協議しなければなりません(同条2項)。
3. 前科が付くと、パスポートの返納を命じられることがある
パスポートの不発給事由に該当する前科が交付後に判明した場合や、パスポートの交付を受けた後で不発給事由に該当する前科が付いた場合は、パスポートの返納を命じられることがあります(旅券法19条1号、2号)。
返納命令において指定された期限までにパスポートを返納しないと、「5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」に処され、または懲役と罰金が併科されます(同法23条1項6号)。
4. パスポートを取得できても、ビザなどの関係で入国できないことがある
罰金以下の前科は、旅券法違反などを除いて不発給事由に該当しないため、パスポートの発給を受けられることも多いです。
しかし、パスポートを取得できたとしても、ビザ申請などの関係で入国許可がなされないことがあります。
(1)ビザがないと入国できない国
以下の国などについては、日本人の入国に当たり、パスポート以外にビザ(査証)が必要とされています(2024年11月現在)。
- インド
- インドネシア
- カンボジア
- 中国
- ネパール
- バングラデシュ
- ミャンマー
- ロシア
- エジプト
- タンザニア
(2)ビザが不要でも、前科があると入国できないケース
テロや不法就労者への対策として、外国人入国者に対して厳しい審査を行う国については、パスポートがあっても前科が付いていると入国できない可能性があります。
特に、ビザ免除国の国民の入国資格を事前に審査する「電子渡航認証システム」が導入されている国については、入国を拒否される可能性があるので注意が必要です。
-
(例)
- スリランカ(ETA)
- アメリカ合衆国(ESTA)
- カナダ(eTA)
- オーストラリア(ETA)
- ニュージーランド(NZeTA)
- ケニア(eTA)
5. 前科が付くのを避け、または量刑を軽くするには?
前科が付くと、パスポートの発給を受けられずに海外旅行ができなくなることがあるほか、就職活動などにおいても不利益を被るおそれがあります。
検察官に起訴されると、非常に高い確率で有罪判決を受けてしまいます。そのため、前科が付くことを避けるためには、起訴されないことが何よりも重要です。
犯罪について身に覚えがないなら、そのことを検察官に対して説得的に訴えましょう。犯罪行為をしてしまった場合でも、真摯(しんし)に反省しつつ被害弁償を行えば、不起訴処分となる可能性が高まります。
もし起訴されてしまっても、執行猶予が付され、または量刑が罰金以下となれば、前科による不利益を軽減できます。そのためには、量刑を軽減すべき事情を、証拠に基づいて説得的に主張することが大切です。
起訴や重い刑罰を避けるためには、早い段階から弁護士に相談しましょう。状況に応じた最善の弁護活動により、被疑者・被告人のために尽力してもらえます。
- こちらに掲載されている情報は、2025年01月23日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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