名誉毀損は「事実」でも責任追及できる? 法的責任を追及する条件とは

名誉毀損は「事実」でも責任追及できる? 法的責任を追及する条件とは

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

名誉毀損は、公然と何らかの事実を摘示した上で、他人の社会的評価を下げるような言動をすることをいいます。

摘示する事実が真実か否かにかかわらず、名誉毀損罪は成立します。ただし、真実であることの証明に加えて、公益性や公共性の要件を満たす場合には、名誉毀損罪が不成立となる点に注意が必要です。

本コラムでは、名誉毀損の成立要件や、摘示した事実が真実か否かによって、加害者の責任にどのように影響が生じるのかなどを解説します。

1. 名誉毀損が成立するための要件

名誉毀損にあたる言動をした者は、刑法上の「名誉毀損罪」(刑法230条)と、民法上の「不法行為」(民法709条、710条)という2種類の法律上の責任を負います。

名誉毀損に関しては、名誉毀損罪と不法行為の成立要件はほとんど同じです。ただし、名誉毀損罪は故意がある場合に限って成立するのに対して、不法行為は過失による場合でも成立するという違いがあります。

名誉毀損が成立するための具体的な要件は、以下のとおりです。

(1)言動が公然と行われたこと

名誉毀損は、公然と行われた言動について成立します。

「公然と」とは、不特定または多数の人に向けた言動であることを意味します。

非公開の場で行われた言動でも、不特定または多数の人に伝わる可能性がある場合には、名誉毀損に該当する余地があります。

(2)言動において何らかの事実が摘示されていること

刑法上の名誉毀損罪は、言動の中で何らかの事実が摘示されている場合に限って成立します。事実の摘示がない場合は、名誉毀損罪ではなく侮辱罪(刑法231条)の成否が問題となります。

(例)

  • AはBと不倫している。
    →「不倫」という事実が摘示されている。
  • Aはバカだ。
    →単に侮辱しているに過ぎず、事実は摘示されていない。

言動の中で摘示する事実は、真実であるか虚偽であるかを問いません。

事実の内容は、人の社会的評価に関係するものであれば足ります。公知の事実であっても、摘示した上で他人の名誉を毀損すれば名誉毀損罪が成立します。

なお民法上の不法行為は、言動の中で事実が摘示されていなくても、被害者に対して精神的損害を与える内容であれば成立する余地があります。

ただし、裁判所に対して名誉回復措置(謝罪広告)などを命ずるよう請求する場合には、事実の摘示が必要であると考えられます(民法723条参照)。

(3)言動が自分の社会的評価を下げるような内容であること

名誉毀損が成立するのは、他人の社会的評価を下げるような言動です。実際に社会的評価が下がったことまでは必要なく、そのおそれがある言動であれば、名誉毀損の対象となります。

なお、言動において被害者が明示的に特定されていなくても、その他の言動や事情などから総合的に判断して、被害者を特定することができる場合には名誉毀損が成立する余地があります(東京地裁昭和32年(1957年)7月13日判決参照)。

(4)公共の利害に関する場合の特例の要件を満たさないこと

刑法では「公共の利害に関する場合の特例」(刑法230条の2)が定められており、以下の条件をすべて満たす場合には、名誉毀損罪が不成立となります。

  1. 言動が公共の利害に関する事実に係ること
  2. 言動の目的が専ら公益を図ることにあったと認められること
  3. 言動が真実であることの証明があったこと

したがって、名誉毀損が成立するためには、上記1. ~3. のうちいずれかを満たしていないことが必要です。

(5)【刑事責任のみ】名誉毀損の故意があること

不法行為は過失による場合も成立しますが、刑法上の名誉毀損罪が成立するためには、名誉毀損の故意が必要となります。

たとえば、被害者の社会的評価を害するような情報を意図せず不注意で流してしまった場合は、不法行為に基づく損害賠償責任は負うものの、名誉毀損罪は成立しません。

なお後述のとおり、言動において摘示した事実が真実であることを誤信していた場合には、一定の要件を満たせば故意が否定され、名誉毀損罪が不成立となることがあります。

2. 名誉毀損の加害者が免責される「真実性の証明」とは

名誉毀損的な言動をしたとしても、その言動の中で摘示した事実が真実であることを証明できれば、名誉毀損罪が不成立となることがあります。

(1)「真実性の証明」による免責の趣旨

「真実性の証明」によって名誉毀損罪の責任を免れることがあるとされているのは、表現の自由(憲法21条1項)に配慮することを目的としています。

他人に対する正当な批判は、表現の自由によって保障されるべきです。

しかし、公然と事実を摘示した上で他人の社会的評価を下げるような言動をすべて名誉毀損罪の対象とすると、正当な批判についても名誉毀損罪が成立してしまいます。

そこで、被害者の保護と表現の自由のバランスを図るため、刑法では「公共の利害に関する場合の特例」が定められました(刑法230条の2)。

真実性の証明を含む一定の要件を満たせば、公共の利害に関する場合の特例によって名誉毀損罪が不成立となります。

(2)「真実性の証明」があっても免責されないケース

言動の中で摘示した事実が真実であったとしても、暴露する必要がない事柄をいたずらに暴露し、他人の社会的評価を下げるような行為は許容されるべきではありません。

そのため公共の利害に関する場合の特例では、真実性の証明以外に以下の2つの要件を満たすことを求めています。

  1. 言動が公共の利害に関する事実に係ること(=事実の公共性)
  2. 言動の目的が専ら公益を図ることにあったと認められること(=目的の公益性)

事実の公共性または目的の公共性のうち、いずれか1つでも満たしていなければ、真実性の証明があっても名誉毀損罪が成立します。

たとえば「Aは不倫している」と暴露したとして、それが単なるゴシップ目的で暴露する必要性がない場合には、不倫が真実だとしても名誉毀損罪によって処罰されます。

私人のプライベートな行為を勝手に暴くことは、原則として認められません。例外的に、社会的影響力の大きい人についての暴露には事実の公共性や目的の公共性が認められる余地がありますが(最高裁昭和56年(1981年)4月16日判決など)、限定的なケースと考えるべきでしょう。

なお、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなされます(刑法230条の2-2項)。

また、公務員または公選による公務員の候補者に関する事実が摘示された場合は、真実性の証明のみによって名誉毀損罪が不成立となります(同条3項。事実の公共性と目的の公共性は不要)。

(3)「真実性の証明」ができなくても免責されるケース

真実性の証明ができなかったとしても、摘示した事実が真実であると誤信したことについて、確実な資料・根拠に照らして相当の理由があるときは、犯罪の故意が否定されて名誉毀損罪が不成立となります(最高裁昭和44年(1969年)6月25日判決)。

ただしこの場合も、名誉毀損について過失があるときは、加害者は被害者が受けた損害を賠償しなければなりません。

3. 名誉毀損による損害賠償請求は弁護士に相談を

名誉毀損の加害者に対して、損害賠償を請求したい場合は、弁護士に相談しましょう。

弁護士に相談すれば、名誉毀損の投稿をした加害者の特定、証拠の確保、加害者との示談交渉、訴訟など、損害賠償請求に必要な手続きを幅広くサポートしてもらえます。

インターネット上における誹謗中傷など、名誉毀損行為による被害にお悩みの方は、お早めに弁護士へご相談ください。

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法的トラブルの解決につながるオリジナル記事を、弁護士監修のもとで発信している編集部です。法律の観点から様々なジャンルのお悩みをサポートしていきます。

  • こちらに掲載されている情報は、2024年11月22日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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