ペットが他人に怪我をさせた…とるべき対応と責任とは?
環境省の公表している動物愛護管理行政事務提要によると、令和4年、犬による咬傷(こうしょう)事故が4923件起きました。このうち、飼い犬により飼い主やその家族以外の第三者が被害を受けた数は4500件を超えています。
出典:環境省「3. 動物による事故 (1)犬による咬傷事故状況(全国計:昭和49年度~令和4年度)」どんなにしつけをされている犬でも、飼い主以外の人から急に触られてかんでしまうこともあるでしょう。
本コラムでは、自分のペットが他人に怪我をさせてしまった場合にとるべき対応と責任について解説します。
1. 自分のペットが他人をかんだ! どうしたらいい?
自分の飼っているペットが他人をかんでしまった場合、以下の流れで対応しましょう。
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被害者に謝罪をし病院に連れていくなど、被害軽減のため適切な処置を行う
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自治体ごとの条例に従い、事故の報告をする
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犬の場合は、48時間以内に獣医師の検診を受け、検診証明書を発行してもらう
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ペットや相手方が加入している保険を確認する
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被害者と和解に向けて治療費や和解金の金額などについて話をする
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再発防止措置を講じる
(1)被害者に謝罪をし病院に連れていくなど、被害軽減のため適切な処置を行う
まずは被害者に誠心誠意謝罪し、病院に連れて行きます。小さい傷に見えても後に悪化する場合もあるため、必ず病院で受診してもらいましょう。
ちなみに、犬にかまれた場合、「狂犬病に感染してしまうのではないか?」と不安を感じる被害者もいます。被害者が安心できるように、狂犬病ワクチンの予防接種を毎年受けていることを早めに伝えるようにしましょう。
なお、犬の飼い主には、狂犬病予防法に基づき年1回狂犬病ワクチンの予防接種を受けさせる義務があり、義務に違反した場合は20万円以下の罰金に処せられる可能性があります。犬を飼っている方は必ず狂犬病ワクチンの予防接種を受けさせましょう。
(2)自治体ごとの条例に従い、事故の報告をする
咬傷事故が起こった場合、飼い主には24時間以内に自治体ごとの条例に従い、事故発生届を提出する義務があります。報告先は保健所や動物愛護センターなど、自治体ごとに異なるため、各自治体の条例に基づき連絡しましょう。
(3)犬の場合は、48時間以内に獣医師の検診を受け、検診証明書を発行してもらう
犬による咬傷事故の場合、48時間以内に獣医師に検診してもらう義務があります。狂犬病に感染していないことを確認してもらい、「検診証明書」を受け取ったら(2)の事故の報告先へ提出しましょう。
(4)ペットや相手方が加入している保険を確認する
治療費などの賠償金は保険が適用され、保険金を受けられるケースがあります。使える可能性がある保険は以下のとおりです。
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ペット保険(ペット賠償責任特約付き)
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健康保険
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労災保険(勤務中や通勤中の事故の場合適用)
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個人賠償責任保険
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傷害保険(賠償責任特約付き)
ペット保険だけでは適用されない場合もあるため、「ペット賠償責任特約」を定額な追加保険料で付帯しておきましょう。
なお、保険会社や保険者(健康保険組合など)に連絡をする前に、被害者と示談交渉をして和解を成立させていると保険が適用されない場合もあります。そのため、相手との示談交渉の前に必ず連絡を入れて、示談交渉のタイミングなどの確認を行いましょう。
(5)被害者と和解に向けて治療費や和解金の金額などについて話をする
被害者と和解に向けた話し合いを行います。話し合う内容は以下のとおりです。
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治療費
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和解金(慰謝料)
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通院交通費
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休業損害
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後遺障害慰謝料(後遺症がある場合)
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逸失利益
和解が成立した場合は、後のトラブルを防ぐためにも「和解書」を作成しましょう。
(6)再発防止措置を講じる
事故の原因を踏まえて、再発防止措置を講じます。なぜ事故が起きてしまったのか、次の事故を起こさないためにはどうすべきなのか、しっかりと考えて対策をとることが大切です。たとえばリードを着けず散歩させていたペットが他人に危害を加えてしまった場合は、今後必ずリードをつけるようにしましょう。
2. 他人に怪我をさせてしまった場合の法的な責任とは
ペットが他人に怪我をさせてしまった場合、飼い主は「刑事責任」と「民事責任」を負います。詳しくみていきましょう。
(1)刑事責任
刑事責任は犯罪行為をしたときに受ける、刑法上の責任のことです。
ペットが他人を怪我させてしまった場合、飼い主は「傷害罪」や「重過失致傷罪」、「過失傷害罪」を負う可能性があります。それぞれの罪の量刑と罪に該当する要件を確認していきましょう。
①傷害罪(刑法204条)
傷害罪は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処される罪です。以下の3つの要件を満たすと成立します。
- 人の身体を傷害すること
- 傷害の故意があること
- 行為と傷害の結果に因果関係があること
「故意」とは意図的、つまりわざとということです。たとえば犬をけしかけて他人に怪我をさせたようなケースでは傷害罪に問われる可能性があるでしょう。
②重過失致傷罪(刑法211条後段)
重過失致傷罪は「5年以下の懲役または禁錮、または100万円以下の罰金」に処せられる罪です。以下の3つの要件を満たすと成立します。
- 人の身体を傷害すること
- 重大な過失があること
- 重大な過失と傷害の結果に因果関係があること
「過失」は注意義務違反のことで、重大な過失というのは単なる過失よりも重い注意義務違反のことです。たとえば、犬舎のおりが壊れているにもかかわらず修理を怠り、その結果犬が脱走して他人に怪我をさせたようなケースでは重過失致傷罪に問われる可能性があります。
③過失傷害罪(刑法209条1項)
過失傷害罪は「30万円以下の罰金または科料」に科される罪です。以下の3つの要件を満たすと成立します。
- 人の身体を傷害すること
- 過失があること
- 過失と傷害の結果に因果関係があること
過失が重大だと判断された場合は前述の「重過失致傷罪」に、判断されなかった場合は「過失傷害罪」に問われる可能性があるでしょう。
(2)民事責任
民事責任は損害賠償責任のことです。ペットの飼い主は「動物の占有者」として、ペットが他人を怪我させた場合、民法718条に基づき損害を受けた人に対して賠償する責任があります。民法718条で負う責任について、詳しくみていきましょう。
①民法718条で負う責任
民法718条の規定は以下のとおりです。
(動物の占有者等の責任)
出典:e-Gov法令検索「民法」
第七百十八条 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
この規定に基づき、飼い主は注意義務違反や管理義務違反がある場合、損害賠償責任を負いますが、相当の注意をもってペットを管理していると認められる場合には損害賠償責任を負いません。
② 「損害」の範囲とは
飼い主が賠償しなければならない「損害」の範囲は、ペットの行為によって生じた傷害であると認められる範囲です。つまりペットの行為と傷害との因果関係がある範囲内のみ賠償責任を負います。
たとえば、ペットから受けた傷害を治療するための通院交通費は支払う義務があります。しかし、事故とは関係のない、以前から通っていた持病の通院交通費を請求されたような場合は支払う義務はありません。
③「相当の注意」とは
飼い主が「相当の注意をもってその管理をしたとき」損害賠償責任を免れますが、「相当の注意」とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか?
判例によると、「相当の注意」は通常払うべき程度の注意義務のことで、異常な事態に対処できる程度の注意義務までは課されていません。具体的な注意義務の内容は、動物の種類や性質、加害歴や飼育管理状況、事故発生時の状況によりケースバイケースで判断されるのです。
3. ペットが他人をかんでしまった場合には、弁護士に相談を
ペットが他人をかんでしまった場合、弁護士に相談して手続きや示談交渉を任せることで、精神的な負担の軽減や適正な損害賠償金での和解が期待できます。また、弁護士に依頼すれば訴訟の対応を任せることも可能です。
ペットが他人を怪我させてしまった場合は、なるべく早い段階で弁護士に相談して、サポートを受けましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2024年09月05日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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