ドラマ『女神(テミス)の教室』3、4話に見る刑事・民事の実務の粋 ~弁護士のロースクール回顧録~

ドラマ『女神(テミス)の教室』3、4話に見る刑事・民事の実務の粋 ~弁護士のロースクール回顧録~

すごくまじめなテーマを選ぶなあと思いました。3話が『黙秘』で、4話が『和解』。実務家になっていろいろ経験していると、思うところの多いポイントなのですが、例えばロースクール時代、法律家を目指していたときに意識することがあったかというと、全然ピンと来ていませんでした。

こういうテーマをドラマにして、一般の人にも考えてもらおうというのは、すごくチャレンジングだと思います。案の定、視聴率は下がり気味のようなんですけど、自分は応援したいです。

1. 刑事弁護人は黙秘を哲学しなくてはならない

黙秘は、ただ「権利」というだけでなく、刑事弁護における「戦略上」、非常に重要です。

捜査段階の弁護士、被疑者は、証拠を自由に見られません。他の証人になる人が何を言っているのかわかりません。そして、捜査機関からの取り調べを、唯一の味方である弁護士と被疑者は共にあることも許されずに受けます。圧倒的に弱者で、無力です。

そんな弱者が、唯一主体的に選択していけるのが、「自分の言葉」です。何を伝え、何を伝えないか、いつ伝えるか、誰に伝えるか、これを選択することによって手続きを多少コントロールできます。コントロールだなんて、まるで悪人の手口のようですが、罪を犯していないのに追及される側からすれば、捜査機関含めた手続き全てが悪であり、自らのみが真実で正義なので、何が何でも抵抗する必要があります。

しかし、そのような発想が、市民の正義感覚に反するのも事実です。警察が悪いわけがない、ちゃんと本当のことを話している自分にひどいことをするわけがないというのが、常識的な感覚ですし、多くの人はその感覚を脅かされる機会もないです。そして無実を主張する人は、しばしば刑事手続き自体が初めてなので、そのような感覚のままに逮捕され、捜査機関の猛威に晒(さら)されます。

ここで、弁護士は、もっとも強力な武器である「黙秘権」の価値を、そして正しさをプレゼンテーションできないと、依頼者の利益を、そして依頼者の語る真実を守れなくなってしまいます。依頼者からの「ちゃんと話さないと心証が悪くなってしまいませんか?」「本当のことを伝えておかないとちゃんと調べてもらえないんじゃないですか?」「怖いです」という質問から、悲鳴にまで答えられるようにしておかないとダメです。

弁護士は、確信をもって、自己が勧める手段の意義と正しさを説明できないと、仕事ができないんです。黙秘権について真剣に考えておくことは意義があります。

2. 和解は民事裁判の王様である

作中でも裁判官役の先生から、「判決で勝つのは二流で、交渉でまとめるのは~が」みたいな話がありましたね。そのような話は、私も司法研修所で民事裁判教官から聞いています。

これはやっぱり、民事裁判の主題が、「お金をいくら払わせるか」という点にあるのも大きいです。多くの人の色んな思いが法的主張の背景にはあるのですが、民事裁判ではそれに対する答えを、最終的に金銭いくらという形でしか答えられないことも多いんですよね。そのため、関わる人の気持ちを完全に充足することは、もとより難しいです。

当事者は、法的な争いを経た上で、どこかで気持ちの区切りをつけることを強いられます。だから、それが和解という形で早い段階で実現するのなら、民事裁判の帰結として間違っていないと思います。私も弁護士として、この和解によって、金額の算定に何がこめられていて、どのような当事者の思いと主張が相手方に認められたのかなどをちゃんと解説し、当事者が事件に区切りをつけられるようにするのも、法律をサービス業とするものとしての一つの仕事だと思っています。

真実は本来消滅するものではないのに、一定回数までしか裁判をさせずに結論を出す。白黒がついていない事実についても、立証責任という形で、勝敗をつける。裁判がそこまで強引に結論をつけていくのは、人が問題にピリオドを打ち、前に進めるようにするためです。

民事事件に携わる人間は、当事者が納得できる結末を作ることを、恐れてはならないのです。

 

3. 実務家への理想や信念は試験へのモチベーションになる

高橋文哉演じる真中信太郎や、前田拳太郎演じる水沢拓磨が、自分があるべき法曹の姿を描いていくところは、この3話4話のドラマ上のポイントだったように思います。私個人としては、このように自分が目指しているものに確信を持てるようになっていくのは、良いことだと思います。

今でこそ、私も本稿のように実務への哲学を熱く語っていますが、ロースクール時代は、実務への情熱というものは見失っていました。元々意識していた原点を忘れて、真中君が言うような何となく勝っていて、立派そうなものを、周りと同じように目指すようになっている一方、そこに強い違和感も覚えていたのです。試験に受かってから何がしたいかが、全く見えていませんでした。そして、私はそのような状態で試験という与えられた課題に真剣に取り組めるほど、勤勉でもなかったのです。

司法試験の勉強は、長く多くつまらないものです。そのような労苦を耐えるには、その先にあるものへの強い希求が必要なのだと思います。模擬裁判で、あそこまで信念を語れた経験は、試験に向けても無駄じゃないよって思いますね。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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