仮差押えとは? スムーズに債権回収を進める方法を解説
商品の売掛金などのお金が支払われないときには、どのような対処が適切でしょうか。何度か催促をしても、支払いがなければ最終的に裁判によって判決を得て、強制執行をするというのが債権回収のよくある流れです。
しかし、裁判となれば解決するまでに長い時間がかかるため、その間に、債務者の資産状況が悪化してしまうおそれがあります。
そのような場合には、「仮差押え」という手段が有効なケースがあります。
今回は、売掛金などが回収されていない債権者に向けて、仮差押えを利用してスムーズに債権回収を進める方法について解説します。
1. 仮差押えとは?
「差押え」は知っていても、「仮差押え」という言葉にあまり聞きなじみがないかもしれません。仮差押えとはどのような手続きのことをいうのでしょうか。
(1)仮差押えの概要
仮差押えとは、裁判を起こして判決を得る前に、金銭的な請求権を保全する目的で、債務者の財産処分を禁止する手続きのことをいいます(民事保全法20条)。
債権回収をする手段としては、裁判を起こして判決を得て、強制執行を申し立てて債務者の財産から強制的に債権を回収するという方法が一般的です。
しかし、裁判を起こして判決を得るまでには、相当の期間を要するため、裁判に負けそうだと思った債務者が財産の隠匿を行ったり、資産状況が悪化し財産がなくなってしまうということもあり得ます。
そのような場合、裁判で勝訴判決を得たとしても、強制執行すべき財産がなく、時間と費用が無駄になるということも珍しくありません。このような事態を避ける手段が仮差押えです。
裁判を起こす前に仮差押えをして、不動産や預貯金などの財産の処分を禁止しておくことで、裁判が長期化したとしても、最終的に仮差押えをした財産から債権回収を図ることが可能になります。
(2)仮差押えと差押え(強制執行)との違い
仮差押えと似た言葉として「差押え」というものがあります。
差押えとは、債務名義を得た債権者が、債務者の財産を強制的に処分して債権の回収を図る手続きのことをいいます。
仮差押えは、前述のとおり、財産の「保全」を目的としているのに対して、差押えは、債権の「回収」を目的としているという違いがあります。
裁判の前に財産を保全するのが仮差押え、裁判の後に債権を回収するのが差押えと覚えておけばよいでしょう。
(3)仮差押えのメリット
仮差押えには以下のようなメリットがあります。
①財産の処分ができなくなる
仮差押えをする最大のメリットは、債務者による財産処分を禁止することができるというものです。
仮差押えが認められれば、債務者による財産処分の心配をすることなく、長期間の裁判を行うことができます。
②債務者に心理的な圧力をかけることができる
仮差押えによって、債務者は財産の処分を禁じられることになります。
たとえば、債務者の預金口座を仮差押えした場合には、当該預金口座からの取引ができなくなってしまうため、その口座をメインバンクとして取引をしている債務者にとっては大きな打撃となります。
仮差押えは、法律上、債務者の財産処分を禁止するだけであって債権回収の効果はありません。もっとも、事実上、財産の処分ができなくなった債務者から任意の支払いが期待できるという効果があります。
2. 仮差押えの進め方
仮差押えをするまでの流れと留意点について見ていきます。
(1)仮差押えをするまでの流れ
仮差押えの手続きについては、一般的に以下のような流れで進みます。
①仮差押えの申し立て
裁判所に仮差押命令申立書を提出する際、仮差押えをする対象財産を特定しなければなりません。対象財産として、不動産、預金債権などが挙げられます。
また、仮差押命令申立書には、保全すべき権利と保全の必要性について記載します。保全すべき権利とは、債権者が債務者に対して有する権利を指します。
②裁判官との面接
仮差押命令申立書が受理されると、裁判官との面接が行われます。裁判官との面接では、申立書に沿って保全すべき権利と保全の必要性についての確認が行われます。
③担保決定
申立書と面接を踏まえて、裁判官が担保金の金額を決定します。仮差押えは、正式な裁判の前に債務者の財産処分を禁じる手続きですので、債務者に不測の損害を与えることのないように、債権者が一定の金銭を担保金として支払う必要があります。
担保金の金額は、保全すべき権利と仮差押え対象財産によって決められますが、保全すべき権利の10%から30%程度が相場です。
なお、あくまでも担保金ですので、最終的に裁判で勝訴判決を得ることができれば、担保金の返還を受けることができます。
④担保金の供託
裁判所によって決められた担保金については、法務局に供託する方法によって支払うことが一般的です。
⑤仮差押命令の発令
担保金を供託し、供託正本の写しを裁判所に提出をすると仮差押命令が発令されることになります。仮差押命令は債務者に送達されます。この段階で債務者は初めて自分の財産が仮差押えされたことに気付くことになります。
(2)仮差押えの留意点
仮差押えをするためには、債権者において対象となる財産を特定して行わなければなりません。
仮差押えの対象となる財産が複数ある場合に、どの財産から差し押さえるべきかなどは、事案によって異なってきますので、専門家に相談をしてみるとよいでしょう。
また、仮差押え自体は債権回収の手段ではないため、仮差押え後、裁判を起こして争っていかなければなりません。そのため、保全から執行まですべての手続きを弁護士に任せて行うと安心でしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2021年05月13日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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