ライブな刑事裁判で有利な事実認定に導け ~示談だけではない情状弁護~
  • (更新:2021年09月14日)
  • 裁判・法的手続

ライブな刑事裁判で有利な事実認定に導け ~示談だけではない情状弁護~

「異議あり!」

この言葉が誠に価値をもって発せられるのも、刑事裁判の醍醐味と言えます。刑事裁判は、特に裁判員裁判が導入されて以降、さまざまな法廷技術が活(い)きる裁判になっています。

元々、そのようなライブな裁判を想定した仕組みが、刑事訴訟法などにも多く組み込まれているのですが、目で見て耳で聞いてわかるという点を、肯定的に評価する向きが実務家の間でも増えてきたところも大きそうです。

このような裁判は、特に事実を徹底的に争う事件で行われていることが多いです。

もっとも、罪を認めて刑を軽くする事件でも、法定のさまざまなルールを扱ったアプローチや、尋問の組み立て方は、意味を持ちます。

今回は、私が経験した一幕を、関係するルールと合わせて説明します。

1. 被告人を窮地から救う「異議あり!」

尋問をする際には厳密なルールが決まっています。

ドラマのように、自由に議論を始めたりはできません。この尋問に関するルールは、刑事訴訟規則199条などに多数存在しており、「異議あり!」という言葉は、尋問ルールに違反していますという申し立てになります。

尋問はどんどん進んで行ってしまい、ストップをかけないと問われた側も答えてしまうため、違反に気づいたら1秒で声を上げ、ルール違反であることを説明する必要があります。即座に反応して論理を組み立てるにはそれ相応の理解と習熟が必要となるため、ドラマやゲームのイメージと異なり、実際の刑事裁判では、あまり異議が出されていないのも実情です。

しかし、異議を出すことは、依頼者である被告人を守る上で、非常に重要です。尋問ルールに反するということは、つまるところ、誤った答えしかできない、正確な答えができないなど、質問にアンフェアな要素があることになるからです。

私が担当した事件でも、たとえば犯罪の行為そのものにあたる部分について、「それは一般的な〇〇と同じか」という質問が出たことがあります。私はすかさず、質問が具体的でないことを指摘しました(刑訴規則199条の13第1項)。罪を認めているとしても、行為態様は量刑を決める上で重要なファクターであるところ、一般的な行為態様がどんなものか曖昧なまま「ハイ」と答えれば、それは評価する者の勝手なイメージで事実が決まってしまうことになり、依頼者が行った以上の重い評価に至ってしまう危険もあったからです。この時は、裁判官が質問者の検察官に、質問を変えるよう指示しました。

もちろんこの異議ひとつだけで、裁判の結論に影響があったかは、正直私もわかりません。しかし、ひとつでも誤った評価に至る危険は排除すべきです。また副次的な効果ですが、尋問は質問者と回答者の1VS1の世界になりがちなので、異議で介入することにより味方の存在を認識してもらい、心理的プレッシャーを和らげられることもあるようです。

2. ないものをあるかのように視覚化する技法

複数ある尋問ルールの中でも、刑事訴票規則199条の12

「証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することができる。」

は、もっともクリエイティブな条文です。

明確化する供述の選択と、「等」とあることから動作なども含めることができる多様な手段によって、法廷にさまざまな視覚的アプローチを取り入れることができます。たとえば、ある事実がないと供述するときに、そのないことを明確化すべく、さまざまな検証を行って見せるといったことも、実際に行われたことがあります。

私が経験した中で、罪を軽くする弁護で活用した一例ですと、もう消費して無くなってしまった物について、それを言葉で説明するだけでなく図画として色合いなどを描いたことがあります。それが嘘偽りなく現実に存在した物であることを示すのもひとつの目的でしたが、同時に、その物を見た人がどのような認識を抱くかについて、より正確に理解してもらうのも目的でした。

というのも、これを見た依頼者が、その物から何を認識できたかが、依頼者の当該犯罪に対する認識を決定づけられる場面だったからです。この事件も、このアプローチだけで成し遂げたわけではないかもしれませんが、犯罪の認識が「未必の故意」という弱いものであることが認められ、量刑の評価にも大きく差が出ることとなりました。

他にも、二か所の監視カメラの間で映っていない部分について、その距離関係や自身の行動を地図上に描いたこともありました。二か所の監視カメラを連続的にとらえると、依頼者がかなり前から犯罪を考えて計画的に行動していたことになるが、その間に断絶があるとすれば、依頼者の犯罪への意識の程度が変わってくる可能性があったため、そこの説明を十分に行う必要があったのです。

このようなさまざまなアプローチが、どのような結果に結びついているかは、判決文や結論だけからはわからないところもあります。しかし、弁護士とは、究極的には依頼者の伝えたいことを伝えるための仕事です。そのために有効な手段があり、しかも法律上認められているなら、試みてみるべきと考えます。

3. 刑事弁護はクリエイティブな仕事である

本稿は、刑事裁判にて行えるライブなアプローチの一例を紹介したに過ぎません。

しかし、このようなアプローチが、法律上可能でありながら、決して一般的ではないのも実情です。それは、長年、そのようなアプローチをしない実務が定着してしまっていたことや、刑事訴訟規則という細かいルールを正確に理解し、時には即興で活用する必要があることへの難易度が理由と考えられます。

とはいえ、刑事弁護はこのように、クリエイティブな仕事になりうるものです。そして、その仕事は、依頼者が伝えたい真実を支えることになるかもしれないのです。

自身が伝えたい気持ちや真実があるのは、罪を認めている事件でも同様です。そのような場面で、裁判を正しく受けるためには、刑事弁護に精通した弁護士へ依頼するのがオススメです。

杉山 大介
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