- (更新:2022年08月31日)
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ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』8 ~再販売価格拘束~
ドラマ『競争の番人』第7回放送(8/22放送)では、トレンドなテーマが来ていましたね。意識していたのは、「食べログ事件」でしょう。
食べログ事件は、先行して2020年3月18日に公正取引委員会(公取委)の調査が行われて報告書が公表されており、優越的地位の濫用の問題が指摘されていました。そして、それらの後押しを受けて民事訴訟が提起され、2022年6月16日、東京地裁で3840万円の損害賠償が認められました。公取委が行政処分において課徴金まで行けたかというと疑問もあり、民間主導のprivate enforcementの事例としても興味深い(「独占禁止法に基づく損害賠償請求」も参照)、競争村の最上位トレンドだと思います。
食べログ事件で使われたルールは優越的地位の濫用でした。行為としては、今回のドラマでも出てきていた、購入者が購入先を選ぶのに必要な情報をゆがめる「取引妨害」の要素も含まれており、主眼点は同じでした。飲食店ポータルサイトに限らず、インターネットにおいて場を提供している事業主の影響力は非常に高く、ビジネス的にも見逃せない話題であり、ドラマで扱ってほしいテーマでした。
と同時に、ドラマの序盤では、「再販売価格拘束」という、伝統的でありながら時代的な変遷を遂げてきているテーマが出てきました。ドラマ内ではサラッと終わってしまったのですが(そしてサラッとで済むのが公取委的や独禁法の役割としては正しいのも、過去に言及した通りです)、実際に問題になることはままあるため、知識としては深めておく価値があります。
今回は現実に出てくる、もう少し「いやらしい手法」などに触れながら、再販売価格拘束などの垂直的制限について言及してみようと思います。
1. カルテル並みの悪ともされる再販売価格拘束 ~原則違法~
「横のつながり」で競争を止めてしまうのがカルテルなら、「縦から・上からの力」で競争を止めてしまうのが再販売価格拘束です。特に値段の下限を決める「最低販売価格拘束」は、競争を守る法律にとって、一番許しがたい行為のひとつとして、伝統的には扱われてきました。
アメリカでは、基本的に問答無用で違法と扱う「per se illegal」というカテゴリーがあるのですが、最低再販売価格拘束は1911年からずっとその位置づけにありました。2007年に連邦最高裁ではかなり議論の対立があった上で、そこまで厳しく扱うものでもないだろうとなったのですが、各州レベルで見ると伝統的な当然違法として取り締まっている当局も残っています。EU(欧州連合)でも、再販売価格拘束は、原則違法として、相当例外的な事情がない限り悪いと評価するスタンスをとっています。そして、日本の公取委も、たとえば平成25年6月26日公取委事務総長定例会見で、再販売価格拘束は原則違法であると確認されています。
アメリカの「per se illegal」という、当然違法という評価が若干緩和される向きもあっただけで、原則違法であり許されないというところは変わっていないように思います。そこで、違反を問われる側は、そもそも価格拘束をしたという評価をとられないようにします。
2. 価格を拘束するってどんな行為?
ドラマでは、メールにおいて、「~円で売れ」とはっきり書いているようであり、従わないと取引しないような文言もありそうでした。そのため、「拘束」は当然の前提となっていました。でも、このルールを違反する人は、もう少し拘束を隠そうとする傾向があります。それでは、どのような場合に「拘束」があったと言えるのでしょうか。
たとえば、ビジネス上実際に存在しているものとして、『メーカー希望小売価格』というものがあります。ただ、これは再販売価格を拘束しているわけではありません。いくらぐらいで売ってほしいと希望すること自体は自由です。さらに言うと、いくらで売られているか市場調査することも、まだ拘束とまでは言えないのが通常です。
拘束は、あくまで従わないと「経済的な不利益」を伴うなど、現実に従わせるだけの条件がそろってないと認められません(最高裁昭和50年7月10日民集29巻6号893頁和光堂事件参照)。判例では経済的な不利益と書いていますが、利益が得られるという形もありです。そのため、従わないと出荷してもらえない、納入価格が高くなると言った場合以外に、納入価格が安く済む、その他のリベートがもらえるといった形でも、「拘束」が認められます。
また、適用される条文が変わるのですが、価格に関する指示は直接しない場合もあります。安売り広告禁止や出店地域の制限といった「拘束」をする場合です。これは、価格を拘束しているわけではないですが、狙いは広告や近隣店舗で価格競争をさせないことなので、懸念される実害は同じです。
このように、実際の事件では、公取委は微妙に隠された価格維持戦略を相手にすることも多いです。
3. 価格の拘束が正しい場合とは?
「Per se illegal(当然違法)」が「原則違法」になり、「適法な場合もありうる」とアメリカで認めた流れからもわかるように、昔は競争停止による価格の高止まりは消費者を害するものとしてもっとも対峙(たいじ)すべき状態とされていたのが、価格を拘束するのに正当な理由がある場合もあると考えられだしたのも事実です。
公取委の流通取引慣行ガイドラインでは、1ブランドの競争力が高まって競争が盛んになり、他のブランドとの「ブランド間競争が促進」される場合や、せっかく広めた知名度に後から参入した者がただ乗りしてしまって、初期からブランドを高めてきた人が損をしてしまう「フリーライダー問題」といった類型があげられています。他に、ハマナカ事件(東京高裁平成22年(行ケ)12号事件)では、文化としての伝統産業維持も、正当な目的になり得るとしています。
ただし、いずれも原則違法を意識して、「本当に必要で良い効果が出る限度で」という絞りが設けられており、実際の事件になると「違法」と評価される方が多いのも事実です。
とはいえ、たとえばドラマの事件が再販売価格拘束による違法として争われた場合、社長が「ブランドイメージのために~」と述べていたように、上記の点を意識した反論なども出されるのが予想できます。事業者にとっては大事なものを、法が「是」とするか「否」とするかというのは、法律的には原則違法で切れても、考えると難しい問題にも思います。
4. 行為ではなくビジネスの在り方に注目せよ
刑事事件的な目線だと、とかく悪意をもった行為に着目しがちですし、その方が話もわかりやすいのかもしれません。でも、度々述べていますが、「独禁法・競争法」は経済活動を扱う法律であり、その事業者の行為が経済活動として正しいのかという目線が、問題の発見には重要になります。
次章から、また悪い行為のめじろ押しに向かってしまいそうですので、今回がビジネスを考える材料がよく提供されていた最後の回になるかもしれません。そこで次回は、「再販売価格拘束」について深掘りしてみました。
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