ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』7 ~私的独占~
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ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』7 ~私的独占~

『競争の番人』(8/15放送)の第6回では、一見、「私的独占」がテーマでした。ただ結論としては、私的独占ではなかったようですね。物語では、調査の結果わかったという形でしたが、そもそも調査の前から、「これは私的独占ではないのでは?」と気がつく場面がありました。

そこで、今回のテーマで調査を誤らないためには、どこが分岐点だったのかに言及し、また別の理屈で調査をするにしても問題点があったところまで検討します。

後半、実は独占禁止法ではなく景品表示法の話が出ていたように見えました。景品表示法と言えば、消費者庁の法律です。この法律について、公正取引委員会(公取委)との関係も整理してみたいと思います。

1. 競争を実質的に制限するとは? ~法律問題の出発点は法律条文~

そもそも今回の事件で「私的独占」を検討すること自体が筋違いだったのではないかと、私は思っています。

独占禁止法の2条5項は、「私的独占」を、「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもってするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」と定義しています。

この中で、特に重要なのは、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」です。なぜなら、「独占」という言葉を体現しているのが、これだけの弊害が生じている時だからです。

公取委は、排除型私的独占ガイドラインにて、この言葉の意味をもう少し掘り下げています。「一定の取引分野」というのは、第1回で言及した市場のことです。

買う人にとっての選択肢の幅を考えることになります。そして、その選択肢がなくなっており、企業がある程度自由に、価格・品質・数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態が形成・維持・強化されていると、「競争を実質的に制限」していることになり、「私的独占」となります。

さて、私も家族が茶道をやっている関係で、呉服の購入を検討する場面に触れることがあるのですが、呉服を買う時ってどういう思考でしょうか? 一品、一品が高価である分、結構丁寧に各店のものを見比べたりします。インターネット取引を活用して、遠方の染職人の地に近いところから購入することもあります。

一方で、茶道をやる人のように複数枚購入するわけではなく、一生に一度の買い物の人だとすると、そもそもどれくらいのサイズが着付けにふさわしいかは、じかに触れて見ないとわからないかもしれません。そうすると、一応は直接のアクセスが可能な範囲が、消費者の選択肢である市場になるかもしれません。

でも、呉服屋さんって、関東だけでもたくさんあります。銀座だけでも両手に収まりません。染の技法などの種類によって得意な商品が異なっていたりもします。

そうすると、1つのチェーンが市場を支配し、「消費者が選択肢を奪われる」ほどになる状況って、少なくともマーケットシェアで考えると、なかなか想定しがたいように思います。たとえシェアは圧倒的でなくとも、問屋といった仕入れ先に強い影響力があり、実質的には呉服屋市場を支配できる力があるなら話は別なのですが、作中で真飛聖のお店は、問屋から商品の引き上げにあっており、特に仕入先を支配できている様子もありませんでした。たくさんいる染め物職人を一社で支配できるというのもあまり考えにくいです。

こうして、そもそも入り口の部分を検討すると、「私的独占」という話をするには、個別の店舗の様子を調査する以前の、マクロな市場分析が必要だったし、そこで一歩踏みとどまることができたとわかります。

2. 不公正な取引方法として問題だった? ~排除行為のカタログ~

もっとも、上記のような「私的独占」になるような市場支配的状態がなかったとしても、個々の行為を問題にはできます。

独禁法は、不公正な取引方法を禁止しています(実は、優越的地位の濫用もこれの1類型です)。そして、私的独占における「排除」もその中身を見ると、排除型私的独占ガイドラインで個々の行為類型が並べられており、これらは独禁法2条9項に定義された「不公正な取引方法」であげられる行為と重なっています。また、不公正な取引方法は、市場支配的状態までは要求していません。そのため、こちらの問題として調査は一応行えたとは思います。

もっとも今回は、何となくライバルを追い出そうとしているという話で、疑いレベルでも特にどのような行為を問題としているのか、わかりにくかったです。端緒となった件についても、従業員の引き抜きがいきなり排除とは言えないと思います。一般指定14項というところにある、取引妨害という類型の不公正な取引方法にはなりうるかもしれませんが、通常は大量引き抜きのように事業が成り立たなくなるような場合が想定されています。

また、外部の職人等に働きかけて、取引拒絶をさせることによって仕入れをできなくさせているだと、不公正な取引方法における「取引拒絶」あるいは「排除」にも当たってくるかもしれません。最後はここを問題としていたと考えるのが、1番つじつまがあいそうです。

調査であっても私人の権利を制限するところは出てくるのですから、何となくやったら自分が加害者になってしまうことを、国家権力側は認識すべきです。

3. 優良誤認表示? 取引妨害?

結局、最初に公取委を利用しようとした小さな呉服屋は、商品の材質を偽っていました。これは、「優良誤認表示」と言って、良いものだと誤解させて消費者をだます行為であり、景品表示法によって禁止されています。違反したら、消費者庁より措置命令という排除措置命令類似のものや、課徴金納付命令が出ることもあります。

この景品表示法、元々は公取委の管轄であったところ、消費者庁に権限がうつされたのですが、調査業務については再度権限委任を受けて消費者庁と共同して行っているところがあります。ただ、これもあくまで地方のケースですので、東京でやっているのは違和感があります。

あえて公取委の権限を前提に考えると、公取委をだましてライバル呉服屋への取引妨害を行った件の一環として調査を行う中で、景品表示法的な話も付随的に出てきてしまったのであり、あくまで不公正な取引方法についての調査だったのかもしれません。この曖昧さも、自身の権限が何のために認められているかに無頓着なところが見られます。

4. 消費者が置き去りなのでは?

物語としては、結局、真飛聖が良い人でカッコ良かったという形で終わってしまっています。どうやら、あれだけ不正を働いた小さな呉服屋もライバルとして残してあげるようです。さすがはトップスタア、器が大きいと言いたいところですが…。

官庁がそれに従っちゃダメですよね。上記のとおり、景品表示法違反で、消費者を直接だました業者は、消費者の敵です。不当な妨害行為により、優良な呉服チェーンへの仕入れも一時滞っており、良い商品を購入する機会が損なわれた人もいるかもしれません。

一部に肩入れして失敗するだけでは飽き足らず、本来守るべき存在をも忘れているのは、公務員として権限を私物化していると批判されても仕方ありません。自身に与えられた権限の意味を、見直す機会が、次回で生じるのか。また来週も楽しみにしています。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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