- (更新:2022年08月10日)
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ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』5 ~優越的地位の濫用と下請法~
8月1日のドラマ『競争の番人』第4回放送において、新しい物語が始まりました。今回のメインテーマも再び、「優越的地位の濫用」です。やはり、「弱者をいじめる強者」という敵役像の方が、視聴者の共感を得やすく物語も回しやすいのだと思います。特に今回は、前回の花屋の話よりも、より網羅的にいじめ行為が出ていたので、優越的地位の濫用のイメージをつかみやすい描き方だったと思います。
まずは濫用行為、いじめのカタログから見て行きましょう。
1. いじめのカタログ ~独禁法における濫用行為~
ドラマではわかりやすく「いじめ」と表現されていますが、一応、こういう場合に濫用行為があって独禁法の対象となるという類型はあります。この濫用行為が認められると、基本的に優越的地位にもあったからそのようなことができたのだろうと考えられるため、まずは濫用行為があるかを考えて行くのが、優越的地位の濫用を考える第1歩です。
ドラマでも図で描かれていましたが、独禁法2条9項5号イ・ロ・ハでも例示されています。(イ)では、買う必要のないものを買わせる行為が挙げられています。(ロ)では、「自己のための利益の供与」と書かれており、これは関連するイベントの協賛金を負担させたり、従業員を派遣させてただで働かせたりする行為を指します。吉沢悠が演じる丸川社長の丸川金属も、従業員をタダで派遣していましたよね。そして、(ハ)では、受領(じゅりょう)拒絶・返品・支払い遅延・減額が挙げられた上で、「その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定、もしくは変更、又は取引を実施すること」が挙げられています。
公正取引委員会(公取委)は優越的地位濫用ガイドラインで、この長いその他のうち「取引の対価の一方的決定」「やり直しの要請」という典型例を取り出して特に考え方を示しており、それ以外を本当の意味での「その他」として扱っています。
カタログはあくまで例示であって、例示以外でも独禁法は「いじめ」として評価できるようにはなっています。ただ、やっぱりカタログに載っている間違いない「いじめ」の方が、公取委が動いてくれる可能性は高いです。
ちなみに、独禁法で言う減額とは、あくまで契約に定めた料金を支払わないことを言います。そのためドラマで、主人公の小勝負が見つけた証拠に書かれていた、丸川社長が安く仕事を引き受けさせられている行為は、「減額」ではなく「取引対価の一方的決定」にあたります。
法律上はどっちでも問題にできるようになっていますが、公取委のガイドラインを細かく見るなら、カテゴリを間違うと問題事例を見つけられなくなるため要注意です。
2. 下請法の活用 ~優越的地位の濫用との違い~
今回、度々「下請け業者いじめ」という言葉が出てきていました。
公取委の実務では、この下請けのカテゴリの場合、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を優先的に使う傾向があります。下請法は、適用する条件が定められている分、あてはまる場合は迅速な措置が行えるため、問題解決が早くできるのが理由です。
ドラマでは、「排除措置命令」に行くまでがすごく早いですが、実際は本家の行政処分をやるとなると、手続き保障として、企業側の反論する機会をいろいろ設けなくてはならず、迅速な救済は難しいところもあるのです。
下請法を適用するには、下請法に定める「一定の資本金格差」がある、取引内容が「製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託」にあたることが条件となります。それぞれの言葉の定義も決められ、たとえば「製造委託」とは、物品の仕様を設定して製造してもらうことを意味します。「役務提供委託」は言葉から分かりにくいですが、自分が請け負っているメンテナンス業務などを下請けさんにやらせる場合がそれにあたります。ただし、建築工事の下請けは当てはまらないと明示されています。
ドラマだと、過去の日光編の花を納入する業者は、この委託としての取引内容に当てはまりませんでした。一方で、4話に出てきた下町工場の人たちは、電子機器を作るためのパーツを、決められた仕様で製造・納品しているので、「製造委託」にもあたり得て、下請法は今回の話でも使えそうです。
下請法上の「いじめ行為」は、4条にカタログがあります。優越的地位の濫用と違って、「その他」は設けられていないので、ちゃんと条文上のカタログにあたるかをチェックする必要があります。
下請法違反が認められても、独禁法と違って、排除措置命令はできません。より強い手段でも違反行為があったことを公表し、違反状態を解消するように勧告するのが限度になります。ただ、勧告なんて従わせる義務はないんだろなどと言い出す、天沢雲海のようなヤバイ社長はいないため、これでも十分に問題を解決できています。
それどころか、公表や勧告を一定の条件でしないであげる運用もあるのですが、その条件には、いじめで搾取した利益の返還も含まれています。そのため、実務で下請法の問題になると、民事訴訟などを起こさなくても、いじめられていた業者にお金が返還されるといった効果が、期待できるようです。
ただし、一度下請法の勧告をしてしまうと、排除措置命令や課徴金納付命令は出せなくなるので(下請法8条)、極悪な企業が出てくるドラマ的にはぬるくなってしまってダメなのかもしれません。
3. 今回から検察監修が入りました
オタクな目線で見ている私は、いつもスタッフロールのところで、監修に誰が入っているかをチェックしています。今回、第4話から検察監修が入りました。出てきているお名前は、元検事の弁護士です。私も、『実務に効く 企業犯罪とコンプライアンス判例精選』や『経済刑法』といった、この方たちの著書で勉強させていただいています。
ところで、このドラマの検察、かなり嫌なやつらですよね? 第5話の次回予告でも、圧力や妨害をかけてくる気配があります。本物の元検事が監修して描かれる検察庁がこうだと、「え、こんなに検察庁って…」とか思っちゃいますよね。次回以降も、”元検事監修“の検察が、どんなひどいことをするのか、ちょっとドキドキ楽しみにしています。
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寺田 弘晃 弁護士
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