ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』2 ~競争を守るための排除措置命令~

ドラマ好きな弁護士が、オタクな目線で楽しむ『競争の番人』2 ~競争を守るための排除措置命令~

前回、続くかは未定と書きましたが、第2回放送(7月18日)を見ていると、やっぱり語りたいことがたくさん出てきました。今回も、排除措置命令、優越的地位の濫用といったワードが出てきましたね。排除措置命令は、執行(enforcement)のひとつで、法律に従った市場を作るためには違反かどうかだけでなく、どういう制裁(sanction)を加えていくかも考えないと、政策的な話にはなりません。

実はこの第2話、あの人はなぜ裏切ってしまったのかという部分には、この制裁のところも関わってもきそうに思っています。このような、ドラマに出ていたが深掘りされていないものの、ストーリーの背景に影響する法律的なポイントについて、今回も話していきます。

1. 誰が、どうやって競争を守るか? ~悪くてもあまり痛くなかった天沢雲海~

今回の第2話では、排除措置命令が2件の行為に関して出されていました。そこで、まずは排除措置命令というのが具体的に何をするのかを解説します。

まず一番大きいのが、文字通り「ある行為を排除しやめさせるもの」です。たとえば、特定の業者以外と取引しないよう持ち掛けたり、取引先業者に人員の無償供与をさせたりするのをやめさせるとかです。他に、そのような行為を受けて取引が制限されていた業者に対して今後妨害が行われず参加できることを周知したり、あるいは一方的に利益のない行為をするようになっていた業者に対してそのような行為が今後不要であることを伝えさせたりとすることもあります。そして、今後も再発を防げるように監査を義務付けたりもします。これらの内容を取締役会で決議させたりします。

今回、公正取引委員会(以下「公取委」)の小勝負は1勝と述べていました。排除措置命令がホテル天沢に出たようですが、どこまでの内容が出ていたのかはわかりません。ただ、かなり細かく命令したとしても、上記の程度です。さて、これによってホテル天沢や、山本耕史演じる天沢雲海がダメージを受けたかというと…はっきり言って受けてないですね。

変わらず雲海は社長で独裁者です。ただ、花屋をいじめる行為が変わるだけです。排除措置命令の限界については緒論あるところですが、私企業としての独立を阻害する行為までは想定されておらず、無理やり役員を解任させたり、特定の価格での取引を命じたりはできないと考えられます。

第2話の最後で裏切り者が出てしまったのも、結局取れた措置が小手先に過ぎず、本当の企業改革まではもたらせなかったところも大きいのではないか、と自分は感じています。その理由のひとつは、公取委が取れた手段の弱さに由来するのです。

2. 強い手段の課徴金、もっとソフトな手段の警告・確約計画の認定

公取委が持っている手段は、上記の排除措置命令だけではありません。もっと強力な手段として、悪い行為により利益を上げた程度にあわせて課徴金を払わせる、課徴金納付命令というものもあります。

これが取れる違反行為は、特に重めの類型に絞られるのですが、一方で公取委の権限強化のための法改正が年々行われてきて、優越的地位の濫用についても、その行為が継続して行われていた場合は、課徴金納付命令も出せることになりました。今回も、天沢ホテルの行為を認定できる証拠から、法律の理屈をつめていけば課徴金納付命令は出せなかったのでしょうか。

結論から述べると、今回は排除措置命令でとどめる方が実務相場には近いのでしょう。そもそも、公取委が排除措置命令という命令を出すことも、何らかの行為や不作為を行政が強制する手段であるため、違反があるから必ず行うものではありません。

違反の認定までは行わず警告にとどめたりと、強制力の行使を控える時もありますし、平成30年の法改正によって生まれた「確約計画の認定」という方法で済ませることも、近年多くなっています。確約計画の認定とは、企業側が自主的に問題是正のためのプランを作って公取委に提出し、排除措置命令といった処分は回避させてもらう方法です。そのため、いきなり排除措置命令に踏み込むのも、ある程度公取委の中では重い扱いになります。

それよりもっと重い課徴金納付命令を出した山陽マルナカやダイレックスといった実際の事件を見ると、いじめられた業者が165や69と多く、期間や取引額も長く大きいため、ドラマよりもずっと大規模な話だとわかります。行政処分は、あくまで違反の程度に応じたバランスをもって行わなければならないという行政のルールからすると、ドラマが扱っている日光のブライダル事件では、課徴金納付までは踏み込めなかったのもやむを得ないと思います。

3. 課徴金は、きっと第3回で出てくる ~刑事罰もありうる、カルテルというもっとも悪質な行為~

そもそも、「優越的地位の濫用」、「いじめ」「搾取」のようなものは、市場の独占・寡占を防ぐことを第一とする独占禁止法の中では、本来的には重い問題とはとらえていませんでした。

一方で、競争をやめるカルテル、不当な取引制限は、独占禁止法が対峙(たいじ)すべき悪の最たるもののひとつとされています。なんだかドラマでは殺人事件も動いてますが、カルテルの場合は、それ自体が刑事罰の対象にもなっていて、実際に公取委が刑事事件化させるために告発している例も多数あります。

多額な課徴金や刑事罰により、今度こそ天沢雲海は痛い目を見るのか…という展開に行くための踏み台としての展開が、物語的にも法律的にも起きたのが第2回だったのでしょう。次回への楽しみも抱きつつ、いったん小休止とします。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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  • こちらに掲載されている情報は、2022年07月22日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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