今よみがえる「恋愛禁止」の契約実務 ~テラハ事件と契約自由の限界~
アイドル業界の不文律として存在する、恋愛禁止の考え。昔から実態はともかく、表向きに交際状態を語ることは少なく、週刊誌や芸能ニュースも、アイドルの恋愛となれば、犯罪のスクープ化のように騒ぎ立ててきた。AKB48などは、メンバーのスキャンダル報道を受けて、逆に「恋愛禁止ルール」を掲げることにより、ブランディングにもつなげた。
このように、事実上、恋愛を認めない不文律は、アイドル、あるいはアイドル的なファン人気を売りにする芸能人には、常につきまとってきた。しかし、そのようなルールを契約として、法律上のものとして設けて、どのように運用されるかについては、知られていないところも多いと思う。
さて、このような芸能人の行動を制約するルールが、テラスハウスの撮影関係でも法的に設けられていたことが、たとえば放送倫理・番組向上機構(BPO)決定でも「誓約書兼同意書」という言及があるように、公開情報からもわかる。
テラスハウスのようなリアリティーショーを巡る法的判断は、いまだ確立されているとは言い難い。しかし、契約として設けるルールの限界については、これまで積み重ねられたアイドルを巡るルールなどから、ある程度類推できる。
そこで、今回は、そのような芸能人の自由を制約する法的ルールと、その限界について、考えを述べてみようと思う。
1. 二つの裁判例から見る司法サイドの理解 ~恋愛禁止条例はあり、しかしその制裁は自由ではない~
いわゆる恋愛禁止条項を巡っては、東京地判平成27年9月18日判時2310号126頁(裁判例1)と、東京地判平成28年1月18日判時2316号63頁(裁判例2)という、二つのリーディングケースが存在する。どちらも、芸能事務所がアイドルに損害賠償を求めた事件である。呪文のように書いている掲載書誌の情報を、判例データベースなどに入れれば、誰でも判決を読むこともできる。ただ、これらを読むのはやや専門的な知識も必要となるため、自分なりにいくつかポイントを整理する。
結論で言えば、裁判例1は、芸能事務所によるアイドルに対する損害賠償を認め、裁判例2は否定したため、全く逆の結論になっている。ただ、恋愛禁止を巡るルールに対する理解については、そこまでずれていないようにも、私は理解している。たとえば、どちらもアイドルとファンとの関係性を分析し、チケットやグッズなどの売り上げというビジネス上の利益と、アイドルによる異性との交際、特に性的な関係が相反することは、事実として前提としている。
そのため、アイドルマネジメント事業を行う上で、特に異性との性的な交際などを制限することには、一定の合理性があると、最終的に損害賠償を否定した裁判例2でも述べている。それではなぜ結論が分かれたかと言うと、前提となる事実と請求の立て方に違いがあった。
裁判例1では、女性アイドルがラブホテルで二人っきりのところを男性ファンに撮らせてしまい、しかもその画像がファンの間に流出してしまいユニットも解散してしまった。そこで、事務所は、レコーディング代やレッスン代、衣装代などかかった実費を損害賠償として請求した。
判決では、わざわざ恋愛禁止までルールにしてやりはじめた仕事で、性的交際の事実が発覚すればグループ活動に影響が出ることもわかったでしょうとして、損害賠償を認めた。
一方で、裁判例2では、そもそもアイドル側は活動をやめたがっており、それに対して事務所側が恋愛のせいで仕事を放棄していると自ら公表して、得られたはずなのにそのアイドルのせいで得られなかった利益まで損害賠償として請求した。これに対し裁判所は、恋愛禁止ルールがあろうと、損害賠償請求をするまで認めるのはあえて公表するなど害意があった場合に限定されるとして、請求を認めなかった。
確かに両者では損害賠償を認める基準が異なっているのだが、そもそも事業に対するダメージとしての恋愛発覚の経緯や、損害請求の内容が異なるのだから、認めるハードルが変わってくるのも当然に思う。
ここで大事なのは、ビジネス上の必要性を根拠にある程度の制約や制裁も認められ、ただ、その制約や制裁が必要限度を超えていると法は認めないという共通ルールが読み取れる点である。
2. テラスハウスにおける合理的な制約と限界は? ~リアリティーショー法務の夜明け~
テラスハウスのようなリアリティーショーは、本物の人間関係、そして恋愛ドラマが展開されることを売りにしている。カメラの裏では別の好きな人がいたとわかってしまえば、視聴者からすると興覚めだ。そうすると、少なくともそのような事実が露見するビジネス上のリスクを把握し、あるいは防ぐための手だてには、一定の合理性が認められることになるし、ショーに参加する以上、ある程度はショーの建前まで壊すことはしちゃいけないと受け入れる必要もありそうである。
一方で、いくら参加したとはいえ、事前に全ての自分への負担を理解していたわけではないだろうし、仮に事業(企画)が頓挫するような事態について、一出演者が全て責任を負うのは、それこそ裁判例2で言うように、積極的に事業を破壊しに行くような害意があった場合に限られるのではないか。
このように、私はリアリティーショーの場面においても、違法と合法な条項のラインを考えていけそうである。
3. 契約法務はパイオニア的でアラカルトな世界です。
あらためて断っておきますが、リアリティーショーについて厳密な法律のルールは判例が確立しているわけではない。しかし、その場面において考慮されるべきビジネス上のニーズや、制裁を受ける側の制約され具合などを想像し、過去の事例におけるバランス感覚に合わせてその契約における規範を考察すれば、全く新しい分野でも、一定のルールメイキングを考えて行ける。
このように契約法務は、それぞれのビジネスニーズに合わせて、自由に考察していけるところが、実務家としては面白いところでもある。
- こちらに掲載されている情報は、2022年07月08日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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