
下請けいじめとは?下請けいじめの相談先は?基礎知識や違法なケースへの対処法を解説
令和7年1月23日、下請事業者に金型を無償で保管させていたのは下請法違反にあたるとして、公正取引委員会は熱交換器部品大手の東京ラヂエーター製造に再発防止と保管費用の支払いを勧告しました。
ちまたでは「下請けいじめ」という言葉がよく使われていますが、これは法律用語ではなく、すべての下請けいじめが下請法違反として問題になるわけではありません。
以下では、どのような行為が下請法違反となるのか、下請けいじめがあった場合にどこに相談すればよいのかについて解説します。
1. 下請けいじめとは?
(1)下請け事業者が不利益を被る「下請けいじめ」とは
下請けいじめという言葉は法律用語ではなく、正確な定義はありません。力の強い親事業者が、力の弱い下請事業者をいじめるというイメージが元になっているのかもしれません。
後述するとおり、下請けいじめとの印象があるものであっても、下請法違反に該当するか否かは法律的な観点で検討することが必要となります。
(2)下請けいじめが発生する背景
一般的な取引においては、親事業者が下請事業者より強い立場に立つことが多い傾向にあります。親事業者は安定した収益基盤やビジネスモデルを持っており、その仕事の発注先を多くの下請事業者から選ぶことができます。
他方で、下請事業者は、親事業者からの発注がメインの収入源であることが多く、親事業者から発注を得られなければ経営が立ち行かなくなることも多い傾向にあります。
このように、親事業者と下請事業者とのパワーバランスに大きな差があることから、力の強い親事業者が下請事業者に無理な要求をしやすくなっていることが、下請けいじめの背景のひとつです。
2. 下請けいじめを是正するための下請法
(1)下請法とは
下請法(正式名称:下請代金支払遅延等防止法)は、主に親事業者(発注者)と下請事業者(受注者)との取引関係を適正化し、下請事業者の利益を保護するための法律です。中小企業や個人事業主などの下請事業者が、発注者との力関係において不利な立場に立たされることが多いため、これを是正するための特別法として制定されています。
なお、独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)という法律もありますが、これは市場全体の競争を保護することが目的で、特定の業種や事業者間に限定されず、広範な取引に適用されます。
(2)下請法が適用される条件
下請法が適用されるケースは以下の図になります。
(a)物品の製造・修理委託および政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合

(b)情報成果物作成・役務提供委託を行う場合((a)の情報成果物・役務提供委託を除く)

①対象となる取引が以下のいずれかに該当すること
対象となる取引類型が、以下のいずれかに該当することが必要です。
- 製造委託
- 修理委託
- 情報成果物作成委託
- 役務提供委託
こちらへの該当性判断はやや複雑であるため、弁護士へのご相談をおすすめします。
たとえば、役務提供委託については、親事業者自身も他社から委託を受けていることが必要です。工作機械メーカー(親事業者)が清掃業者(下請事業者)に対し、「自社工場」の清掃作業を委託する場合、下請法の適用はありません。
②資本金額の規模が法律で定められた範囲内であること
上記図のように、親事業者の資本金額が一定額を超えていること、下請事業者の資本金額が一定額以下であることが必要です。
(3)下請けいじめに該当する下請法の違反行為
下請法では親事業者に対して11項目の禁止行為を規定しています。この11項目の行為が親事業者に認められた場合、仮に親事業者が違法性を認識していなかったとしても、あるいは下請事業者の了解を得ていたとしても、親事業者には下請法違反が問われることになります。
以下、主要な例を記載します。
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代金が支払われない
親事業者が下請け代金の支払いを遅延させること、あるいは下請事業者の責任となる事情がないにもかかわらず発注時に決定した下請代金を減額させるような下請けいじめは禁止されています。
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注文品の受け取り拒否
下請事業者の責任となる事情がないにもかかわらず、納品時に親事業者から受け取りを拒否される、あるいは不良品ではないにもかかわらず返品してくるような下請けいじめは禁止されています。
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報復的な突然の取引中止
下請事業者が親事業者の下請けいじめを中小企業庁や公正取引委員会などに通報したことに対して、親事業者が報復的に取引減少や取引中止を行うような下請けいじめは禁止されています。
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不当な買い叩き
発注代金を決定する際、親事業者が世間一般の水準(下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価、市場価格)とかけ離れた低い価格を迫る下請けいじめは禁止されています。親事業者に原価高騰を理由に売価の引き上げを求めたのに協議に応じないことについても、これに該当する可能性があります。
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購入や利用の強制、不当な経済上の利益提供を要請してくる
正当な理由がないのにもかかわらず、取引維持をちらつかせながら親事業者が自ら指定する製品やサービスの利用を強制する、あるいは親事業者のために金銭や役務提供などを要請するような下請けいじめは禁止されています。
冒頭の東京ラヂエーターの事案で紹介したように、金型の無償保管を強制する行為もこれに該当する可能性があります。
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不当な条件変更や、やり直しを強制してくる
下請事業者の責任となる事情がないにもかかわらず、親事業者が急に発注内容の変更や取り消しをする、あるいは納品後にやり直しをさせるような下請けいじめは禁止されています。
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有償支給の材料などについて、早期決済を迫る
親事業者から有償で原材料の支給を受け、それを使用し製品の製造または修理を請け負っている場合に、親事業者が下請事業者に対して有償支給の原材料の早期決済を迫る、あるいは下請け代金の支払いと相殺するような下請けいじめは禁止されています。
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割引が難しい手形で下請け代金を支払う
下請け代金の支払期日までに割引が難しい手形により支払いを強制するような下請けいじめは禁止されています。
(4)下請法の行政処分による中小企業の救済
公正取引委員会のウェブサイトにおいては、過去の勧告について公表されていますが、以下のようなものがあります。
- 下請事業者に金型を無償保管させた行為に対し、保管費用を支払うよう勧告した事例
- 下請事業者と十分な協議を行うことなく一方的に委託金額を決定した行為に対し、過去の分を含め、一定額まで引き上げることを勧告した事例
- 下請事業者からの納品について、仕様からは必要性が分からないやり直し行為をさせた行為に対し、やり直しに要した費用を下請事業者が支払うことを勧告した事例
(5)下請けいじめをした親事業者はどうなる?
下請けいじめをした親事業者に対する影響としては以下があります。
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損害賠償請求
下請けいじめという不法行為が原因で会社に損害が生じている場合は、実際に受けた損害(積極損害)について賠償を請求できる可能性があります。また、下請け代金の未払いや支払い遅延などの場合は、実際に支払われるべき下請け代金に遅延利息を付加して請求することも可能です。
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公正取引委員会からの勧告
前述したとおり、公正取引委員会から違反の是正などの勧告がなされる可能性があります。また、この際に、当該親会社の社名も公表され、レピュテーションへのリスクが生じる可能性もあります。
3. 下請けいじめを受けた場合の対処法
(1)状況確認と交渉を行う
もし法的に禁止されるものであれば、法律的な要件に従った主張およびそのエビデンスを整理し、親事業者と交渉を行うことが考えられます。
(2)下請けいじめの相談窓口
①下請けかけこみ寺(中小企業庁)
下請かけこみ寺とは、(公)全国中小企業振興機関協会が受け付けている中小企業・小規模事業者の取引に関する相談および苦情紛争処理などの通称です。
以下のような流れで相談が進みます。

最初に無料相談ができることがメリットですが、すぐに下請事業者の代理人としてアクションを起こしてもらえるわけではありません。
下請けかけこみ寺から弁護士相談へ移行する場合について、お急ぎであれば最初から無料法律相談を受け付けている法律事務所を探して即時対応を求めることが、時間的な意味では望ましいといえます(後述③をご参照ください)。
下請けかけこみ寺から裁判外紛争解決手続へ移行する場合について、下請事業者自身で親事業者に対する主張や証拠内容を精査し、申立書を作成する必要性があります。
下請けかけこみ寺から中小企業庁への通報へつながる場合については、②と同様のメリットデメリットがあります。
②公正取引委員会
下請けいじめに関する相談や通報は、各地域における公正取引委員会の事務所に対して行います。
弁護士のように代理人報酬を請求されないことがメリットですが、もちろん下請事業者の希望する方針やタイムスケジュールのとおり進めてもらえるわけではありません。たとえば、親事業者と円満に一定の和解金で交渉し解決をしたい場合でも、それが保証されるわけではありません。公正取引委員会の裁量により、親事業者への命令、立ち入り検査、罰金命令(刑事罰)などがなされる可能性も考えられます。
③弁護士
弁護士に相談することの最大のメリットとしては、下請事業者の代理人として、その希望する方針やタイムスケジュールを尊重して進めてもらえる点があります。方針として賠償請求まで行うこともできますし、そこまで大事にはせず、下請事業者が親事業者に対し今後の取引適正化を要請するに際しての後方支援も可能です。
また、厳密に下請法違反に該当しないとしても、契約違反やその他の法的請求権を根拠として交渉することが可能ですし、今後損害を受けないように予防策をアドバイスすることも可能です。
デメリットとして弁護士費用の発生がありますが、とりあえず弁護士から見積もりを取り、予算の範囲内で委任できる業務について協議してみることが考えられます。
いずれの相談窓口を選ぶにしても、前述のとおり法的観点から見通しを検討する必要があることから、弁護士に相談することは無駄にはなりません。
親事業者からの下請けいじめで深刻なダメージを受ける前に、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。
4. 下請けいじめに関するよくある質問
Q1 弁護士はどのように選べばいい?
A1 下請法に関する法律知識はもちろんのこと、会社間取引の実務に関する基礎知識も必要とされるため、企業法務実務の実績が豊富である弁護士を選ぶことが好ましいと考えます。
Q2 弁護士に相談したら、親事業者から取引を打ち切られてしまうことはない?
A2 弁護士は弁護士法上守秘義務を負っているため、相談された事実が外部に漏れることはありません。
また、実際に親事業者に連絡をする際も、前述のとおり、親事業者による報復的な突然の取引中止については下請法違反となる旨を伝えつつ、穏便な解決を求めることも可能です。
- こちらに掲載されている情報は、2025年04月21日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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