- (更新:2025年01月10日)
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【2024年11月施行】フリーランス新法とは?わかりやすく解説
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス新法」という)」が令和6年11月1日より施行されました。フリーランスと取引がある事業者は、フリーランス新法が定めるルールを遵守しなければなりません。違反した場合には、事業者に罰則が課される場合があるので、適切な対応が求められます。
そこで、本コラムでは、フリーランス新法の概要や、事業者が準備すべき対応事項について詳しく解説します。
1. フリーランス新法とは…フリーランスを保護する法律
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス新法」という)」が令和6年11月1日より施行されました。フリーランスと取引がある事業者は、フリーランス新法が定めるルールを遵守しなければなりません。違反した場合には、事業者に罰則が課される場合があるので、適切な対応が求められます。
(1)フリーランス新法の制定経緯
働き方の多様化が進み、フリーランスという働き方が普及する一方で、フリーランスは個人で収入を得るために事業をしていることから、原則として労働基準法の適用がなく、取引上弱い立場に置かれがちです。
内閣官房日本経済再生総合事務局が令和2年5月に実施した「フリーランス実態調査」の調査結果によれば、70万人〜80万人程度のフリーランスが、事業者とのトラブルを経験したことがあると算定できます。
具体的な調査結果は以下のとおりです。
- フリーランスの人口は「462万人」と試算できる。
- 業務・作業の依頼(委託)を受けて仕事を行い、主に事業者と取引を行うフリーランスは全体の「43.2%」を占め、そのうち「37.7%」のフリーランスが事業者とのトラブルを経験したことがある。
調査結果も踏まえ、フリーランスに係る取引の適正化と、フリーランスの就業環境の整備を目的として、フリーランス新法が制定されました。
(2)適用範囲(保護対象・規制対象)
発注事業者がフリーランスに対して業務委託をする場合に、フリーランス新法が適用されます。
なお、フリーランス新法では、発注事業者は「特定業務委託事業者」または「業務委託事業者」、フリーランスは「特定受託事業者」と定義されます。
- 「特定業務委託事業者」(フリーランス新法第2条第6項)
- 個人であって、従業員を使用するもの
- 法人であって、役員がいる、または従業員を使用するもの
- 「業務委託事業者」(フリーランス新法第2条第5項)
- 「特定受託事業者」(フリーランス新法第2条第1項)
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、1の代表者以外に他の役員がなく、かつ従業員を使用しないもの
特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、次の1または2に該当するもの
特定受託事業者に業務委託をする事業者
業務委託の相手方である事業者であって、次の1または2に該当するもの
2. フリーランス新法で何が変わる?
(1)フリーランス新法の変更ポイント
フリーランス新法では、発注事業者の態様や委託期間に応じて、発注事業者に義務・禁止項目が課されます。
発注事業者の要件 | 義務・禁止項目 | |
---|---|---|
I | 「業務委託事業者」が業務を委託する場合 |
①取引条件の明示義務 |
II | 「特定業務委託事業者」が業務を委託する場合 |
①取引条件の明示義務 ②期日における報酬支払義務 ④募集情報の的確表示義務 ⑥ハラスメント対策に係る体制整備義務 |
Ⅲ | 「特定業務委託事業者」が一定期間以上行う業務を委託する場合 |
①取引条件の明示義務 ②期日における報酬支払義務 ③発注事業者の禁止行為 ④募集情報の的確表示義務 ⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮義務 ⑥ハラスメント対策に係る体制整備義務 ⑦中途解約等の事前予告・理由開示義務 |
以下にて、計7つの義務・禁止項目の内容を簡単に説明します。
①取引条件の明示義務(フリーランス新法第3条)
フリーランスに対し業務を委託した場合は、直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日等の取引条件を書面または電磁的方法により明示しなければなりません。
②期日における報酬支払義務(フリーランス新法第4条)
発注した給付を受領した日から起算して原則60日以内のできる限り短い期間内で、支払期日を定めて、その日までに報酬を支払わなければなりません。
③発注事業者の禁止行為(フリーランス新法第5条)
一定の発注事業者には、7つの禁止行為が定められています。
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき
- 購入・利用強制
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更・やり直し
④募集情報の的確表示義務(フリーランス新法第12条)
広告等によりフリーランスを募集する際は、その情報について、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(フリーランス新法第13条)
フリーランスからの申し出に応じて、
- 6ヶ月以上の期間で行う業務委託について、フリーランスが妊娠、出産、育児または介護(以下「育児介護等」という)と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。
- 6ヶ月未満の期間で行う業務委託について、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をするよう努めなければなりません。
⑥ハラスメント対策に係る体制整備義務(フリーランス新法第14条)
ハラスメントによりフリーランスの就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければなりません。また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったなどを理由として不利益な取り扱いをしてはなりません。
⑦中途解約等の事前予告・理由開示義務(フリーランス新法第16条)
- 6か月以上の期間で行う業務委託について、契約の解除または更新しない場合、例外事由に該当する場合を除いて、解除日または契約満了日から30日前までにその旨を予告しなければなりません。
- 予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を発注事業者に請求した場合、発注事業者は、例外事由に該当する場合を除いて、遅滞なく開示しなければなりません。
(2)フリーランス新法と下請法の違い
フリーランス新法と下請法は、いずれも弱い立場に置かれがちなフリーランスや下請事業者を保護するための法律です。報酬支払期限や禁止行為などに関する規定が設けられています。
一方、フリーランス新法と下請法とでは、発注者と受注者の資本金要件の有無が異なります。下請法は、発注者と受注者の資本金が一定額以上または一定額以下の場合に適用されますが、フリーランス新法は、資本金の制限がありません。
また、下請法と異なり、フリーランス新法にはフリーランスの就業環境に関する規定が盛り込まれています。
(3)違反した場合の罰則
フリーランス新法に違反しても直ちに刑事罰の対象とはなりませんが、以下のような場合には刑事罰の対象となる旨が規定されています。
-
フリーランス新法違反があった場合の公正取引委員会や公正労働大臣による命令に違反したとき(フリーランス新法第24条第1項)
50万円以下の罰金
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フリーランス新法により義務付けられる報告をしなかったり、検査を拒んだりしたとき(フリーランス新法第24条第2項)
50万円以下の罰金
-
フリーランス新法により義務付けられるハラスメント防止措置に関する報告をせず、または虚偽の報告をしたとき(フリーランス新法第26条)
20万円以下の過料
3. 事業者が準備すべき対応は?
フリーランス新法に対応するために準備すべき事項は事業者により異なりますが、以下で対応方法の具体例を紹介します。
(1)契約書などの書面の作成・見直し
契約は原則として口約束でも成立するので、フリーランスに口頭で仕事を発注することも認められていました。しかし、フリーランス新法施行後は、企業がフリーランスに書面で委託する業務や成果物の内容、報酬、支払期日などを明確にしたうえで発注しなければなりません。そのため、契約書や発注書などの書面の準備が必要になります。
また、すでに契約書や発注書でフリーランスに発注をしている場合でも、記載内容がフリーランス新法に対応しているか見直しが必要になります。不備があればひな形を修正して、必要に応じて契約を締結し直しましょう。
(2)報酬額の設定・支払方法
フリーランスに業務を委託する際には、原則として「報酬の額」を明示することが必要となりますので、報酬の算定基準が明確で、適正な報酬額の支払いがされているか、今一度確認しておきましょう。
また、フリーランスへの報酬支払方法が「月末締め翌々月末払い」に設定されていれば、納品から60日以上経過してしまうこともあり得ます。この場合、支払いサイトを短くするなどの対応が必要になります。
(3)募集条件の見直し・環境整備
不特定多数が閲覧できる媒体でフリーランスを募集する場合、募集情報を正確に表示することが求められます。虚偽の情報はもちろん、誤解を招くような表現や誇張も認められません。
その他、フリーランスも相談可能なハラスメント相談窓口を設ける、育児介護等の家庭の事情を考慮して発注を行うなど、フリーランスに対しても、自社の従業員と同様に働きやすい環境整備の準備を進める必要があります。
(4)社内教育
従業員に対して、フリーランス新法の内容やフリーランスとの取引における禁止事項・注意点を周知し、コンプライアンス意識を高めることが重要になります。
また、セクハラ、パワハラ、マタハラなどの各種ハラスメント研修については、フリーランスも対象に加える形で、研修内容をアップデートする必要があります。
4. フリーランス新法の対策は弁護士に相談しよう
事業者は、フリーランス新法の内容に漏れなく対応する必要があります。特に、下請法の適用がなかった事業者は、対応すべき事項が多く発生するでしょう。
フリーランスとの取引において、ルールの遵守を徹底してトラブルを未然に防ぐためにも、可能であれば弁護士に相談しながら社内体制を整備しましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2025年01月10日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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