不当解雇の可能性も? 会社が知っておくべき解雇の種類と注意点

不当解雇の可能性も? 会社が知っておくべき解雇の種類と注意点

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

日本の労働法では、労働者の権利が非常に厚く保護されています。たとえ従業員の能力が期待していたより低かったり、従業員の重大な業務ミスにより会社が損害を被ったりしても、それだけで従業員を解雇してしまうと、後に法的なトラブルに巻き込まれてしまう可能性が高いです。

したがって、解雇を行う際には、事前に慎重な検討を行う必要があります。

本コラムでは、事業主の方が知っておかなければならない解雇の種類や要件・注意点などについてご紹介します。

1. 解雇の種類

法律上、解雇とは、使用者が一方的に労働契約を解約することをさします。

解雇には「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」の3種類があります。以下、それぞれの内容について説明します。

(1)普通解雇

「普通解雇」とは、懲戒解雇と整理解雇を除く解雇全般を意味します。

普通解雇を行うことができるのは、労働契約・就業規則上の解雇事由に該当する場合に限られます。解雇事由としては以下のようなものが挙げられます。

  • 能力不足、成績不良、適格性の欠如
  • 職務怠慢、勤怠不良
  • 体調不良、病気、ケガによる就業不能
  • 職場規律違反、業務命令違反

ただし、これらの事由があるからといって、直ちに解雇が認められるわけではありません。

解雇をすることに客観的に合理的な理由があり、解雇が社会通念上相当と認められなければ無効となります(労働契約法16条)。

(2)懲戒解雇

「懲戒解雇」とは、労働者に重大な職務規律違反や悪質な非違行為などがあった場合に、懲戒処分の一環として行われる解雇をいいます。

懲戒処分には、軽いものから、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇(諭旨退職)、懲戒解雇があります。懲戒解雇はもっとも重い懲戒処分に当たります。

懲戒解雇の理由となるものとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 会社の経費を流用するなどの横領行為をした場合
  • 度重なるセクハラやパワハラによって職場の風紀を著しく乱した場合
  • 会社の名誉や信用を著しく害する犯罪行為をした場合

ただし、これらの事由があるだけで直ちに懲戒解雇が認められるわけではありません。懲戒処分が労働者の行為の性質・態様などに照らして重すぎると認められる場合には、無効となります(労働契約法15条)。

懲戒解雇を含め、懲戒処分を行う場合には、処分の重さに相応した重大な違反行為があったといえるかどうか、慎重に調査・検討することが大切です。

(3)整理解雇

「整理解雇」とは、会社の経営難などの経営上の理由によりやむを得ず行われる解雇をいいます。

整理解雇は普通解雇や懲戒解雇とは異なり、労働者側に原因・落度があるとはいえません。したがって、会社側に対し、以下の「整理解雇の4要件」と呼ばれる厳しいハードルが課されています。

  1. 人員削減の必要性

  2. 解雇回避努力義務の履行

  3. 被解雇者選定の合理性

  4. 解雇手続きの妥当性

それぞれの詳しい内容については後述します。

2. 合理的な理由のない解雇は大きなトラブルになる可能性も

「解雇」は、会社側の判断で労働契約を一方的に終了させる行為です。

労働者は、会社から支払われる賃金に生活資金を依存しているケースが多いため、突然解雇されると経済的に困窮する可能性があります。そのため、会社が合理的な根拠なく労働者を解雇することは、法律上「不当解雇」として無効とされています。

労働者から不当解雇の主張が行われた場合、解雇無効や損害賠償をめぐって大きなトラブルに発展するおそれがありますので、解雇の判断は慎重に行うことが大切です。

特に解雇に関する重要なルールとして、以下の点に留意しておきましょう。

(1)解雇予告義務・解雇予告手当支払い義務

使用者が労働者を解雇する場合、原則として、30日以上前にその予告しなければなりません。あるいは、直ちに解雇するならば30日分以上の平均賃金を「解雇予告手当」として支払う必要があります(労働基準法20条1項本文)。

この原則の例外として、以下の2つの場合には、解雇予告手当すら支払わず即時に解雇することが認められています(労働基準法20条1項但書)。

  • 天変地異等の事業の継続が不可能になった場合
  • 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合

ただし、事前に労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けなければなりません(労働基準法20条3項・19条2項)。

(2)懲戒解雇・普通解雇は契約・就業規則上の根拠を必ず確認

懲戒解雇には就業規則上の「懲戒事由」、普通解雇には労働契約または就業規則上の「解雇事由」が存在することが、解雇の絶対条件となります。

懲戒事由に当てはまらないのに懲戒解雇をしたり、解雇事由に当てはまらないのに普通解雇をしたりすると、直ちに解雇が違法・無効となります。

懲戒事由や解雇事由の解釈などをめぐって疑義がある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

(3)整理解雇は「4要件」を満たす必要あり

経営難などによる人員整理を目的として解雇を行う場合には、以下の「整理解雇の4要件」をみたす必要があります。

<整理解雇の4要件>

  1. 人員削減の必要性

    人員削減をしなければ倒産状態に追い込まれてしまうなど、高度の必要性が要求されます。

  2. 解雇回避努力義務の履行

    役員報酬の削減、残業の削減、新規採用の抑制、配置転換、出向、一時休業、希望退職者の募集など、解雇以外の方法を試みたものの、なお整理解雇がやむを得ないと判断できることが必要です。

  3. 被解雇者選定の合理性

    整理解雇の対象者は、合理的な基準により、公平・公正に選定される必要があります。会社が恣意的に対象者を選定することは認められません。

  4. 解雇手続きの妥当性

    整理解雇を行うことについて、労働者個人や労働組合に対し、整理解雇の方針、手続き、規模、条件などの説明を尽くし、真摯に協議することが求められます。

このように、整理解雇は一朝一夕の判断で行ってよいものではなく、一定以上の準備期間をとって行わなければならないものです。

(4)「解雇権濫用の法理」について

さらに、すべての解雇に共通して「解雇権濫用の法理」が適用されます。

解雇権濫用の法理とは、労働契約法16条に定められた以下の規定を意味します。判例で蓄積されてきた法理を、労働契約法の制定の際に条文化したものです。

労働契約法16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

特に懲戒解雇・普通解雇については、懲戒事由・解雇事由に該当するだけでは不十分であり、解雇の客観的合理性・社会的相当性の審査に耐えられるだけの解雇理由を提示できるかどうかがポイントになります。

上記の各ルールを踏まえて、従業員の解雇を検討中の事業主・経営者の方は、事前に弁護士に相談することをおすすめします。そうすれば、本当に解雇をすべきかどうか、解雇をするとしたらどのようなプロセスを経るべきかなどについて、有益なアドバイスを得ることができます。

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