ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』2 ~AV新法も生んだ未成年者取消権~

ドラマ好きな弁護士が、あえて突っ込んで楽しむ『石子と羽男』2 ~AV新法も生んだ未成年者取消権~

毎回、何らかの法律用語がサブタイトルについているのが、職業人を引き寄せるドラマ『石子と羽男』。2022年7月22日放送の第2話は、「未成年者取消権」がテーマでした。もっとも、物語は最終的に、そこではないところが出てくるのも第1話と同じ構成でしたが、今回は未成年者取消権についてもメインテーマのひとつとして残っていたように思います。

この単語は最近、ニュースでも耳にする機会がありました。成人年齢引き下げと絡んでAV新法というものが作られるきっかけは、18歳・19歳が、この未成年者取消権を行使できなくなるというのが理由でした。そこで、今回は、この未成年者取消権と、特に「詐術」について、少し深堀してみようと思います。

1. 「詐術」という論点は実はマイナー? ~法学部生も知らない人がいるお話~

まず『民法21条』を確認してみたいと思います。

「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。」

“制限行為能力者”という形で、未成年者に限らず、成年被後見人、被保佐人、被補助人をという、保護の必要性の程度が違う人たちを一括してひとつの条文で取り扱っています。

続いて、法学部の学生が、民法の授業を取ると必ず教材として指定される、判例百選という本があります。現在、この民法21条をテーマにした判例は、判例百選に載っていません。百選と言いつつ3冊あるので300選ばれているのですが、その重要テーマから漏れてしまっています。そのため、未成年者取消権と詐術というテーマについて、法学部を卒業している人でも、一度も考えたことがない人も結構いるのではないかと思います。

なお、昔は「昭和44年2月13日最高裁判決」というのが載っていました。しかし、これも結論から述べると、未成年者取消権の先例としては機能しないです。

2. 昭和44年2月13日最高裁判決は未成年者取消権の先例にならない ~子どもはもっと保護されるべき~

少し勉強した人だと知っている判例です。ただし、これは準禁治産者という、現在で言うところの「被保佐人相当」の人が行った行為を問題としたものであり、結論としては取消を認めたものの、どちらかと言えば、積極的にうそをついたわけではなく、自分が1人で契約などができないことを黙っていた場合でも、状況などを踏まえれば詐術となることがあるとして、詐術となる範囲を広めにとらえることができそうな判例になっています。

ちなみに、他にも、法定代理人の同意があると偽る場合も、21条での取消が制限されるという判例もあります(大正12年8月2日大審院判決)。

一方で、ドラマでもあげられていた経済産業省の、令和2年8月版電子取引及び情報財取引等に関する準則では、以下のような記載になっています。

「詐術を用いた」ものに当たるかは、未成年者の年齢、商品・役務が未成年者が取引に入ることが想定されるような性質のものか否か(未成年者を対象にしていたり訴求力があるものか、特に未成年者を取引に誘引するような勧誘・広告がなされているか等も含む)及びこれらの事情に対応して事業者が設定する未成年者か否かの確認のための画面上の表示が未成年者に対する警告の意味を認識させるに足りる内容の表示であるか、未成年者が取引に入る可能性の程度等に応じて不実の入力により取引することを困難にする年齢確認の仕組みとなっているか等、個別具体的な事情を総合考慮した上で実質的な観点から判断されるものと解される。

すなわち、「未成年者の場合は親権者の同意が必要である」旨を申し込み画面上で明確に表示・警告した上で、申込者に生年月日等の未成年者か否かを判断する項目の入力を求めているにもかかわらず、未成年者が虚偽の生年月日等を入力したという事実だけでなく、さらに未成年者の意図的な虚偽の入力が「人を欺くに足りる」行為といえるのかについて他の事情も含めた総合判断を要すると解される。

ちょっとうその年齢を書いたぐらいで詐術と認めてはダメよ、ということです。

だいぶ、詐術と認める範囲を狭く考えています。ちなみに、これは経産省が勝手に言っているというわけではなく、たとえば大正5年12月6日大審院判決でも、成年に達していると告げるだけでなく、戸籍謄本の偽造などの積極的な手段があって初めて詐術になるとしているものがあります。

近年でも、地裁の裁判例レベルだと、茨木簡裁昭和60年12月20日判決、長崎地裁佐世保支部平成20年4月24日判決、京都地裁平成25年5月23日判決など、詐術の範囲を狭く解釈してきた裁判実務があります。

同じ条文でも、「詐術」というものへの理解が分かれてきそうなのは、要保護性の程度が違うからだと考えられます。未成年者や、成年被後見人は、原則何も自由に行ってはいけない人たちです。民法5条や9条で書いてある例外にあたることだけが、単独でやれます。

一方、被保佐人は民法13条にリストアップされたこと、被補助人は民法17条のとおり審判で決められたことについて、例外的に単独での行為を制限されます。原則制限と、原則自由という差が、民法でも設けられているのです。そのため、同じ民法21条を考える際にも、原則制限側の未成年者は、とにかくまず保護されるべしと積極的に考えられるのです。

石子と羽男は、サラッと事件に対処して見せていましたが、弁護士だったら当然知っているわけではない知識と理解がこのように前提としてありました。私もうろ覚えで調べなおした部分もあります。今回のお二人、なかなか有能でしたよ。

3. AVに限らず18歳は大人ではない ~年齢で決まらぬ消費者保護問題~

社会全体の分布で言うと、高校卒業時点で仕事についている人がまだ多数派です。ただし、現在の40代以下の年齢層だと、大学・短大・高専などに言っている人が過半数を占めています。つまり、18歳だとまだ学生をやっている人が、今後の社会の多数なわけです。

AVに関しては、新法という形で大きく取り上げられましたが、18歳には、他にもさまざまな誘因があります。一人暮らしで初めて自由になる金銭の浪費。あやしいマルチ・ネットワークビジネス、そして宗教などの勧誘。水商売や性風俗の世界にも自由に入れます。2で挙げた裁判例も、茨木や長崎佐世保の事件は、18歳・19歳の当時未成年が当事者でした。これだけ要保護性があるとして来た前提は、変わらず失われていないように、私は思います。

制限行為能力という文脈以外の、消費者契約法などさまざまな形で、要保護性を踏まえた解釈が行われる余地はあるのではないかとも考えています。

杉山 大介
杉山 大介 弁護士

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