相手の財産がない場合、強制執行で差し押さえることは可能?
強制執行とは、債務者(被告)に対して金銭の支払いを命じる民事裁判の判決確定後に、債務者の財産を差し押さえるなどして強制的に債権を回収する手段です。
債務者から任意に金銭の支払いがない場合には最終的に強制執行を検討することになるでしょう。しかし、強制執行の申し立てをすれば、どのような財産でも差し押さえることができるというわけではありません。
今回は、強制執行で差し押さえが可能な財産や差し押さえできる財産がない場合の対応について解説します。
1. 強制執行で差し押さえできる財産・できない財産
強制執行で差し押さえることができる財産にはどのようなものがあるのでしょうか。以下では、差し押さえできる財産とできない財産について紹介します。
(1)差し押さえできる財産
差し押さえをすることができる財産としては、後述する差し押さえ禁止財産を除けば、債権執行、動産執行、不動産執行などにより債務者の有するほとんどの財産が対象となります。
差し押さえできる財産の代表的なものとしては、以下のものが挙げられます。
- 給料、賞与、退職金など(ただし、差押禁止部分を除く)
- 預貯金債権
- 自動車
- 不動産(土地、建物)
- 骨とう品や貴金属などの動産(ただし、差押禁止部分を除く)
(2)差し押さえできない財産
債務者の有する財産のうち一部の動産と債権については、法律上差し押さえが禁止されています。
①差し押さえ禁止動産
一部の動産については、債務者の生活に必要不可欠なものや宗教、プライバシー、教育面への配慮から、差し押さえが禁止されているものがあります。
差し押さえが禁止されている動産としては、以下のようなものが挙げられます(民事執行法131条)。
- 債務者の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用品、畳および建具
- 債務者の1か月の生活に必要な食料および燃料
- 66万円までの現金
- 債務者の業務に欠くことのできない器具その他のもの
- 実印その他の印で職業または生活に必要なもの
- 仏像、位牌その他礼拝または祭祀に必要なもの
- 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿など
- 債務者や親族が受けた勲章など
- 債務者の学校などにおける学習に必要な書類および器具
- 発明または著作に係る物で未公表のもの
- 債務者の義手、義足など
- 災害防止のために設置が義務付けられている消防用の機械、器具、避難器具その他の備品
②差し押さえ禁止債権
債権者が最低限度の生活を送ることができるように債権者の有する債権の一部についても差し押さえが禁止されています。
差し押さえが禁止されている債権としては、以下のようなものが挙げられます。
- 給料、賞与、退職金など(民事執行法152条)
給料などの債権は、原則として手取り金額の4分の1までしか差し押さえることはできません。ただし、給料などの手取り額が33万円を超える場合には、33万円を超える部分についても差し押さえをすることができます。
- 国民年金、厚生年金などの年金受給権や生活保護受給権
国民年金、厚生年金などの年金受給権や生活保護受給権などの債務者の生活のために支給される公的給付については、個別の法律により差し押さえが禁止されています。ただし、年金や生活保護が預貯金口座に振り込まれた場合には、単純な預金債権になりますので、それについては差し押さえが可能となります。
2. 差し押さえできる財産がない場合は?
差し押さえをしようとしても強制執行の時点で差し押さえできる財産が存在していなければ差し押さえをすることができません。
効果的な差し押さえを実現するためにも以下のポイントを押さえておきましょう。
(1)事前の財産調査
債務者の財産を差し押さえするためには、債権者が債務者の財産を特定して強制執行の申し立てをしなければなりません。強制執行の申し立てを受けた裁判所が債務者の財産を探してきて差し押さえをしてくれるわけではありませんので、効果的な差し押さえをするためには、強制執行前に債務者の財産を十分に調査しておくことが重要になります。
財産調査にあたっては、弁護士に依頼することによって弁護士会照会などを利用した財産調査が可能になります。差し押さえるべき財産がどこにあるかわからないという場合には、弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。
(2)財産が処分される前に仮差押え
事前の財産調査によって債務者の財産が判明したとしても、強制執行の時点でその財産が処分されてしまえば、差し押さえをすることはできなくなります。このような事態を防止するためには、仮差押えという手段が有効です。
仮差押えとは、判決が出ていない段階においても、債務者の財産処分を禁止する手続きのことをいいます。仮差押えをする場合には、担保金が必要になりますが、債務者の財産を仮差押えできれば、それによって将来確実に債権の全部または一部の回収を見込むことができます。
財産がなければ債権を差し押さえることはできなくなりますので、債権回収でお悩みの方はなるべく早く弁護士へ相談されるとよいでしょう。
- こちらに掲載されている情報は、2022年05月23日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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