仮差押えができる要件は? 債権回収を実現するために必要なこと

仮差押えができる要件は? 債権回収を実現するために必要なこと

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

債権回収を実現するためには、最終的には強制執行をすることになります。しかし、強制執行をする時点で債務者のもとに財産が存在していなければ、それまでに行った裁判や強制執行の手続きがすべて無駄になってしまうことはご存じでしょうか。

このような事態を回避するためには、仮差押えによって、あらかじめ債務者の財産を保全しておくことが有効な手段となります。今回は、仮差押えの要件を中心に仮差押えの制度について解説します。

1. 仮差押えとは

仮差押えとは、債権者が債務者の財産を仮に差し押さえることによって、債務者による財産の処分を禁止する手続きのことをいいます。

債権回収の手段としては、通常は、裁判を起こして勝訴判決を得て、判決を債務名義として強制執行の手続きを行うという流れで進んでいきます。しかし、裁判を起こしてから判決を得るまでには、争いがある事案ですと、1年以上の期間を要することも少なくありません。長期間の裁判手続きを行っていると、その間に債務者の財産が処分されたり、隠匿されたりする可能性は否定できません。

仮差押えの手続きは、このような財産処分を禁止することによって、将来確実に債権を回収するための手段として行われるものです。

仮差押えの対象となる債務者の財産として代表的なものは、以下のとおりです。

  • 不動産
  • 債権(預金債権、売掛債権など)
  • 動産(金銭、有価証券、船舶、自動車、機械など)

2. 仮差押えができる要件

仮差押えをする場合には、以下の要件を満たす必要があります。

(1)被保全権利の存在

被保全権利とは、仮差押えにより保全される権利のことをいい、被保全権利が存在するということを裁判所に疎明する必要があります。被保全権利の存在は、契約書や借用書などの客観的な証拠によって明らかにするのが一般的です。

なお、仮差押えの被保全権利は、金銭債権でなければならないとされていますが(民事保全法20条1項)、条件付きまたは期限付きの債権であっても問題ありません。

(2)保全の必要性

仮差押えによる保全の必要性が認められるためには、差し押さえるべき財産を放置すると強制執行ができなくなるおそれがあること、または、強制執行をするのに著しい困難を生じるおそれがあることをいいます。

どのような場合に保全の必要性が認められるかはケース・バイ・ケースです。しかし、以下のようなケースでは認められる可能性が高いでしょう。

  • 現時点で仮差押えをしておかなければ、債務者による処分、隠匿などによって、債務者の責任財産が量的または質的に減少するおそれがある
  • 担保権の設定や逃亡によって強制執行に事実上の支障を及ぼすなどの事情がある

保全の必要性は、債務者の資産状況、負債状況、債権者の請求に対する債務者の応答、債務者の職業、営業状況、信用状態など、裁判所に適切な判断をしてもらえるよう、具体的に主張していきます。

3. 仮差押えを行う手順

仮差押えの手続きを行う場合には、一般的に以下のような流れで進められます。

(1)仮差押命令の申立て

仮差押えを行うためには、まずは、管轄裁判所に仮差押命令の申立てを行います。仮差押命令の申立てを行う際には、仮差押えの要件である被保全権利の存在および保全の必要性について具体的に疎明する必要があります。

(2)面接

仮差押命令申立てについての審理は、口頭弁論を経ないでできる決定手続きによって行われます(民事保全法3条)。したがって、審理は、書面による方式、当事者の審尋による方式および任意的口頭弁論の組み合わせで進められます。

なお、東京地方裁判所では、原則として全件について申し立ての翌々日までに裁判官が債権者の審尋を行うという運用がとられています。

(3)担保提供

実務上、仮差押命令は、債権者に担保を立てさせてから発令されるのが通常です。担保の額は、裁判所が事件の具体的事情や申立ての理由についての疎明の程度を考慮して裁量によって決めることになります。担保額のおおよその目安は、差押えの目的物である債務者の財産の価格の2~3割程度であることが多いです。

(4)保全決定

仮差押命令の申立てについて決定がなされると、調書決定の場合を除いて、決定書が作成されます。

(5)保全執行

保全執行の方法は、申立ての内容によって異なってきます。不動産に対する仮差押えについては、裁判所書記官が登記嘱託を行いますので、別途保全執行の申立ては不要です。これに対して、動産に対する仮差押えの執行は、執行官が動産を占有して行うため、別途保全執行の申立てを行う必要があります。

保全執行は、仮差押命令が債権者に送達された日から2週間を経過すると、その執行をすることができなくなりますので注意が必要です。

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