行政裁判になるケースとは。例えばどのようなとき訴訟になるのか

行政裁判になるケースとは。例えばどのようなとき訴訟になるのか

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

わたしたちの生活は普段は意識することが少ないかもしれませんが、営業の認可や規制など、さまざまな面で行政庁に管轄されています。住民の中には、行政の判断に対して不満を持ち、判断を変更してほしいと考える方もいるでしょう。

しかし、行政の下した判断を覆すのは容易ではなく、裁判が必要なケースもあります。ここでは、どのような場合に行政を相手取った訴訟になるのか、その種類や要件を紹介していきます。

1. 行政を相手に裁判を行う行政訴訟の種類

行政訴訟は行政事件訴訟法において、4つの種類を定めています。

このうち抗告訴訟と当事者訴訟は、主観訴訟に分類されます。主観訴訟とは、国民の個人的な権利利益の救済を目的とする訴訟のことです。

一方、民衆訴訟と機関訴訟は客観訴訟に分類されます。客観訴訟は行政活動の適法性の確保を目的とする訴訟であり、個人の利益には直接関係のない訴訟になります。

日本の裁判は主観訴訟が原則であり、客観訴訟は行政訴訟法第42条に定めるように、限定的な場合に提起することができます。

(1)抗告訴訟

抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関して不服を伝え救済を求める訴訟のことです。行政庁の作為だけでなく不作為も対象になり、以下のような種類があります。

①処分の取り消しの訴え

行政庁の処分や、公権力の行使にあたる行為の取り消しを求める訴訟をいいます。

②裁決の取り消しの訴え

審査請求、その他の不服申立てに対する行政庁の裁決、決定その他の行為の取り消しを求める訴訟をいいます。

③無効等確認の訴え

行政庁の処分もしくは裁決があるのかないのか、またはその効力が有効か無効かの確認を求める訴訟をいいます。

④不作為の違法確認の訴え

行政庁が法令に基づく申請に対し、期間内になにかの処分または裁決をすべき状況であったにもかかわらず、何の処分もしなかった場合、違法性の確認をする訴訟をいいます。

⑤義務付けの訴え

一定の条件のもとに、行政庁がその処分または裁決を求める訴訟をいいます。

⑥差止めの訴え

行政庁が一定の処分または裁決をすべきでない場合に、差し止めを求める訴訟をいいます。

(2)当事者訴訟

当事者訴訟は以下のふたつに分けられます。

①形式的当事者訴訟

当事者間の法律関係を確認し、または形成する処分、または裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものを形式的当事者訴訟といいます。具体的には、著作権者が裁定で決められた補償金額に不満がある場合、訴えを提起してその増減を求める訴訟などがあります。(著作権法第72条)

②実質的当事者訴訟

公法上、つまり国と個人の間で法律に関する確認の訴えを起こすことを実質的当事者訴訟といいます。具体的には、日本国籍を有していることを国に確認する訴訟などがあります。

(3)民衆訴訟

民衆訴訟は、国または公共団体の行為が法律違反をしていることを理由に、住民や選挙民が是正を求める訴訟をいいます。

具体的には以下のケースがあります。

①選挙に関する訴訟

選挙中に違法行為があったことが選挙後に発覚し、当選の効力の無効を訴えるケースなどが該当します。

②住民訴訟

首長の公金の違法な使用が発覚した場合に、監査請求をしたのちに被害回復を訴え、住民が訴訟をするケースが住民訴訟にあたります。

(4)機関訴訟

機関訴訟とは、国または公共団体の機関相互間で生じた紛争についての訴訟をいいます。本来は行政機関内部で解決が望まれるため、法律に定めがある以下のような場合のみに訴訟を提起することができます。

①地方公共団体の長と議会の紛争

議会の議決について、手続き上の誤りがあるために無効であると市長が訴えるようなケースが該当します。

2. 行政訴訟はどのような場合に起こせるか?

前述したように、行政訴訟にはさまざまな種類がありますが、たとえばどのような場合に訴訟が起こせるのか、具体例を紹介します。

(1)横浜市立保育園廃止処分取消請求事件

横浜市が条例を制定して特定の保育所を廃止し民営化したことに対し、保護者たちが保育所廃止処分の取消を求めた事件です。(最高裁判決、平成21年11月26日)

この事件では、条例の制定が抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたるかどうかが争われ、裁判で認められました。

(2)行政処分取消等請求事件

市営老人福祉施設の民営事業者への移管にあたって、応募した事業者が選考で決定されなかった通知を受け取ったことが、行政処分にあたるかどうか争われた事件です。(最高裁判決、平成23年6月14日)

この事件では、市と事業者のやりとりは選考の結果通知にしかすぎず、公権力の行使にあたらないと判断されました。

3. 訴訟ができる要件とは

事例のように、行政事件では訴えそのものが行政訴訟の要件を満たし、適法であるかどうかが重要なポイントになります。以下に、行政訴訟の要件を説明します。

(1)処分性

行政庁の一方的行為により、直接国民の権利義務を課したり、その範囲を確定させたりすることが法律によって認められているものをいいます。

最高裁判例(最判昭39.10.29 東京都ごみ処理場事件)では、「処分」とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと定義されています。

(2)原告適格

原告適格とは、具体的な事件について訴訟を提起する資格があることをいいます。行政訴訟では、行政庁の行為によって自己の権利や利益に対して不利益をこうむる者と考えられています。

①狭義の訴えの利益

裁判の結果、原告の訴える利益の回復が客観的に可能であることをいいます。期間の経過などによって、処分後に事情の変化があった場合に問題となります。

②被告適格

訴える相手のことです。原則として、どの行政庁が処分を行ったかにかかわらず、その行政庁が所属する国や公共団体を相手方として訴えれば問題ありません。

③管轄

処分をした行政庁の所在地を管轄する地方裁判所、もしくは原告の住居地を管轄とする高等裁判所の所在地にある地方裁判所に訴えを提起しなくてはなりません。

④出訴期間

取消訴訟の場合、処分があったことを知った日から、6か月以内に出訴しなくてはいけません。また、処分又は裁決の日から1年を経過したときは、提起することができません。ただし、正当な理由があるときは、この限りではありません。

これに対して、不作為の違法確認の訴え、無効等確認の訴え及び処分の差止めの訴えには、出訴期間の定めは規定されていません。

⑤審査請求前置主義

行政事件訴訟法では、行政庁の処分について原則的に、いきなり取消訴訟を提起できるとしています。

しかし、個別の法律で審査請求の裁決を経なければ、訴訟ができないと定められている場合は、いきなり訴訟をすることはできません。これを審査請求前置主義(不服申立前置主義)といいます。

このように、行政処分は複雑な手続きが必要です。自分の訴えはどのような手続きが必要か判別するためには、管轄の行政庁に確認をするとともに、弁護士に相談してはいかがでしょうか。

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