行政訴訟とは? 訴訟の類型と種類、要件について知っておこう

行政訴訟とは? 訴訟の類型と種類、要件について知っておこう

弁護士JP編集部 弁護士JP編集部

行政訴訟とは、国や地方自治体などによる行為の適法性を裁判で争い、私たち個人の権利を救済するための裁判制度のことです。原発建設の差し止めを求めた裁判などが行政訴訟の一種です。本記事では、行政訴訟の種類や、取消訴訟を一例とした訴える際の要件についてご説明します。

1. 行政訴訟と種類

行政訴訟には、公権力の行使の適法性などを争い、処分の取り消しなどを求めるものなど複数の訴訟が用意されており、すべて政事件訴訟法によって規定されています。行政訴訟は、大きく分けて主観訴訟と、客観訴訟という2つの類型に分けられます。また、それぞれの類型の中に複数の訴訟が用意されています。

(1)主観訴訟

主観訴訟とは、国民ひとりひとりの権利利益の保護を目的とした訴訟のことです。主観訴訟には、抗告訴訟と当事者訴訟があります。

①抗告訴訟

抗告訴訟とは、行政庁による公権力の行使に対する不服に対する訴訟を指し、以下の5つに分類されています。

  • 取消訴訟
  • 無効確認の訴え
  • 不作為の違法確認
  • 義務付け訴訟
  • 差し止め訴訟

②当事者訴訟

当事者訴訟とは、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の2種を指します(行政訴訟法第4条)。

  • 形式的当事者訴訟
    実質的には行政庁による処分を争うものですが、紛争の性質上、行政庁との間ではなく、当事者同士で決着をつけるべきものがこれにあたります。

    形式的当事者訴訟の代表例は、土地収用法の補償額に関する訴訟です。たとえば、土地開発などによって土地を収用する場合、補償額としての買い上げ金額を決定するのは行政機関である収用委員会です。この買い上げ金額に不服がある場合は、収用委員会に訴訟を提起するのが筋ですが、実際に金銭を払うのは土地の開発者であるため、訴訟においては、土地の所有者と土地開発者との間で行われます。これを、形式的当事者訴訟といいます。
  • 実質的当事者訴訟
    公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟が、実質的当事者訴訟です。

    例としては、公務員の地位確認訴訟、日本国籍の確認の訴え、租税の過誤納の返還請求などが挙げられます。

(2)客観訴訟

客観訴訟とは、国民ひとりひとりの権利や利益に直接関係するものではなく、ただ、客観的にみて違法な行政庁の行為を制限するための制度です。例外的な類型であり、訴えられる範囲も限定されています。

①民衆訴訟

民衆訴訟とは、地方自治法242条の2に基づいて、選挙人としての資格、その他自己の法律上の利益にかかわらない資格に基づいて、一定の理由で提起される訴訟です。

民衆訴訟には以下の2つの訴訟があります。

  • 住民訴訟
    住民訴訟とは、公職選挙法203条に基づいて、住民が自分の住んでいる地方公共団体の監査委員に住民監査請求を行ったところ、監査の結果自体に不服、または監査の結果不正・違法な行為があった場合に、それに対する必要な措置が講じられなかった場合などに裁判所に訴訟を起こすことができるという制度です。
  • 選挙訴訟
    選挙訴訟とは、選挙に関するあらゆる訴訟、たとえば選挙人名簿に関する訴訟、選挙の効力に関する訴訟、当選に関する訴訟などのことを指します。

②機関訴訟

機関訴訟とは、国または公共団体の機関が両当事者(原告と被告)となって争う訴訟です。機関訴訟の例は次のとおりです。

  • 代執行訴訟(地方自治法245条の8第3項)
  • 首長と議会との紛争の裁定の訴訟(地方自治法176条7項)
  • 国の関与に関する訴え(地方自治法251条の5)
  • 都道府県の関与に関する訴え(地方自治法252条)

2. 行政訴訟を起こすための要件

行政事件訴訟法は多数の種類があり、それぞれについて訴訟要件が厳格に定められています。

ここでは、行政訴訟の代表例である、取消訴訟の訴訟要件を説明します。

(1)処分性

取消の対象となる処分が公権力であること、処分によって個人の個別具体的な法的地位の変動があることの2点を満たす必要があります。

なお、最高裁判例(最判昭39.10.29 東京都ごみ処理場事件)では、「処分」とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと定義されています。

(2)原告適格

取消訴訟を提起した者が「処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」であることを要します。

(3)狭義の訴えの利益

取消判決によって、現実に原告の権利救済が得られることが必要です。

(4)被告適格

原則として、処分または裁決をした行政庁が所属する行政主体(国または公共団体)を被告としなければなりません。

(5)管轄

原則として、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所、または、処分・裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所に提訴します。

(6)出訴期間

出訴期間とは、訴訟を提起できる期間のことです。下記いずれかの期間を経過すると、取消訴訟を提起することができなくなります。

  • 処分または裁決があったことを知った日から6か月を経過したとき
  • 処分または裁決の日から1年を経過したとき

なお、不作為の違法確認の訴え、無効等確認の訴え及び処分の差止めの訴えには、出訴期間の定めは規定されていません。

行政訴訟について種類や訴訟要件を説明しました。行政庁を相手に訴訟をする場合は、これらの規定に合わせて正確な手続きが必要となります。弁護士などに相談して、どの訴訟類型を選択するか検討するとよいでしょう。

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