
通勤中の事故で労災がおりない! 労災認定要件や対処法を解説
通勤中の交通事故でも、一定の要件を満たせば労災保険給付を受けることができます。
本記事では、通勤中の事故における労災認定の要件や、労災がおりない場合の対処法について解説します。
1. 通勤災害とは? 労災がおりるための要件
まずは、労災に関する基本的なことを確認した上で、通勤災害で労災がおりるための要件をみていきましょう。
(1)通勤災害とは
通勤災害は労働災害の一種です。
労働災害は、業務が原因で労働者に発生した負傷や疾病、障害や、死亡などの災害のことであり、「業務災害」と「通勤災害」の2つに分けられます。
このうち、業務中に発生した災害のことを「業務災害」といい、通勤中に発生した災害のことを「通勤災害」といいます。
通勤中に交通事故に遭った場合は、一定の要件を満たせば通勤災害に認定されます。
(2)通勤災害で労災保険からおりる給付の内容
通勤災害に認定されると、労災保険給付を受けることができます。労災保険給付には以下の種類があり、どの給付をいくら受けられるかは、被害の状況に応じてことなります。
給付の種類 | 給付の内容 |
---|---|
療養(補償)給付 | けがで療養が必要な場合の治療関係費 |
休業(補償)給付 | けがの療養のために働けなくなり、収入が得られなくなった場合の補償 |
傷病(補償)年金 | 治療開始後1年6か月を経過しても治癒せず、傷病等級(第1級~第3級)に該当した場合の補償 |
障害(補償)給付 | けがが完治せず後遺障害が残った場合に、該当する障害等級(第1級~第14級)に応じて受けられる補償 |
介護(補償)給付 | 一定の障害により傷病(補償)年金を受給し、かつ、現に介護を受けている場合に受けられる補償 |
遺族(補償)給付 | 死亡事故の場合に、一定範囲の遺族が受けられる補償 |
葬祭料(葬祭給付) | 死亡事故の場合に、葬祭を行った人が受けられる補償 |
なお、交通事故で労災保険給付を受給した場合には、その大部分が、加害者側から支払われる損害賠償金から差し引かれます。この処理のことを「損益相殺」といいます。
しかし、労災保険給付の種類によっては、損害賠償金よりも手厚い補償が受けられるものもあります。例えば、労災保険による給付は、相手方保険会社からの既払金の処理とは異なり、被害者側に過失があっても過失相殺が行われないというメリットもあります。
また、加害者が無保険の場合でも、通勤災害に認定されると確実に労災保険給付を受けられるという点も、大きなメリットのひとつです。
したがって、通勤中に交通事故に遭った場合には、加害者やその保険会社への損害賠償請求とは別に、労災保険の申請を検討するとよいでしょう。
(3)通勤災害と認められるための要件
通勤中の交通事故が通勤災害と認められるのは、就業に関し、以下の3つのどれかに該当する移動を、合理的な経路および方法で行っている途中で事故が発生した場合です。
- 自宅と就業場所との間の往復(日常的な通勤)
- 平時の就業場所から他の就業場所へ移動するもの(自社から取引先の事業所への移動など)
- 自宅から就業場所への往復に先行または後続する住居間の移動(転任の場合など)
移動の途中で寄り道をした際に事故にあった場合は、合理的な通勤経路を逸脱・中断したことになるため、原則として上記の要件を満たしません。
しかし、以下のように日常生活上必要な行為のために最小限度の逸脱・中断をした場合、用件を済ませて合理的な通勤経路に戻った後は、再び上記の要件を満たすようになります。
- スーパーやコンビニなどで、食料品や日用品を購入する
- 食事どきに飲食店で食事をする
- 健康上の理由により医療機関で診察や治療を受ける
2. 通勤災害と認められないケース
通勤中に発生した交通事故でも、合理的な通勤経路を逸脱・中断した際に発生したものは、通勤災害として認められません。
ここでは、通勤中にありがちな逸脱・中断のうち、通勤災害と認められないケースをいくつか紹介します。
(1)趣味のための寄り道中
趣味のための寄り道は、「日常生活上必要な行為のために最小限度の逸脱・中断」には当たらないため、その寄り道中に発生した事故は通勤災害と認められません。
「日常生活上必要な行為」とは、厚生労働省が定めた以下のもののことを指します。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る) 引用元:東京労働局|通勤災害について
上述のとおり、趣味のための寄り道は、「日常生活上必要な行為」に該当しません。したがって、スポーツクラブや習い事、釣り、映画館、ドライブなどにおもむいた際に交通事故にあった場合は、通勤災害と認められないのです。
(2)終業後の飲み会への行き帰り
終業後に同僚や友人たちとの飲み会へおもむき、その行き帰りに交通事故にあった場合も、「日常生活上必要な行為のために最小限度の逸脱・中断」には当たらないため、通勤災害と認められません。
ただし、会社の公式な行事などで、飲み会中も会社の支配下に置かれていたと認められる場合には、その行き帰りも業務と密接に関連するといえるため、通勤災害と認められる可能性があります。
例えば、以下のような場合には、通勤災害と認められる可能性が高いといえるでしょう。
- 全従業員が事実上、参加を義務づけられていた
- 参加すれば出勤扱いとされていた
- 会社の指示により取引先を接待した
(3)普段とは異なるルートでの通勤
通勤災害に該当する「通勤」は、あくまでも合理的なルートでなければなりません。
次のような場合は、合理的な通勤ルートから逸脱しているため、その途中で発生した交通事故は通勤災害と認められないことに注意が必要です。
- 終業後に友人や恋人の自宅へおもむいた
- 友人や恋人の自宅で宿泊し、翌日、そこから出勤した
- 最寄り駅の一駅手前で下車し、徒歩で通勤した
3. 通勤中の事故で労災がおりなかった時の対処法
通勤中の交通事故で労災がおりなかった時は、以下のように対処しましょう。
(1)不服申し立て
通勤災害の認定は労働基準監督署が行いますが、その判断に納得できない場合は、その結果を知った日の翌日から3か月以内に、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をすることができます。
審査請求の結果にも納得できない場合には、審査官から決定書の送付を受けた日の翌日から2か月以内に、労働保険審査会に対して再審査請求をすることが可能です。
再審査請求の結果にも納得できない場合は、裁判(労働基準監督署による処分の取消しの訴え)で争うこともできます。
(2)加害者側への損害賠償請求
労災がおりなかった場合は、通勤災害に該当することを証明できる有力な証拠を新たに提出しない限り、不服申立てをしても通勤災害に認定される可能性は低いのが実情です。
しかし、通勤災害の認定が難しい場合でも、加害者側へ損害賠償請求をすることは可能です。
加害者が自動車保険に加入している場合は、その保険会社と示談交渉をすることになります。
ただし、加害者側の保険会社は賠償金の支払額を少しでも抑えようと考えるため、被害者に不利な示談案を押し付けてくることが多いです。保険会社の言うことをうのみにして示談すると、賠償金で損をする可能性が高いので注意しましょう。
(3)弁護士へ相談
加害者側の保険会社との示談交渉で適正な額の賠償金を獲得するためには、専門的な知識を要するので、弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士は代理人として保険会社と交渉してくれるので、自分で保険会社と直接やりとりする必要はなくなります。慰謝料については、弁護士基準と呼ばれる有利な算定基準を用いて請求してもらえるので、賠償金の増額も期待できます。
また、通勤災害の給付を受けるための手続きについてもアドバイスが受けられますし、認定に必要な証拠の収集もサポートしてもらえます。
通勤中に交通事故にあったら、労災保険給付のメリットを受けるためにも、早めに一度、弁護士に相談してみましょう。
- こちらに掲載されている情報は、2025年05月23日時点の情報です。最新の情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
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